平成8年6月27日 ■1 調査の趣旨 (1)本調査の目的 ・本調査は、厚生省として、非加熱血液凝固因子製剤による非血友病のHIV感染に関する 問題の重要性を踏まえ、平成7年度に行われた調査の方法を再検討して、製剤の投与お よび非血友病患者のHIV感染の実態把握の徹底を図るために実施した。 ・この調査の目的は、非加熱血液凝固因子製剤の使用実態の把握とHIV感染者の早期発見 により発症予防及び治療、二次感染の防止に資するとともに、感染者の早期救済につ なげるものである。 (2)今回の報告の留意点 ・今回は、病院からの回答がおおむね出揃った第IX因子製剤について第1次報告として公 表するもので、第VIII因子製剤については、現在調査中であり、7月末を目途に報告す る。 ・医療機関の協力のもと、できる限り、現在も保管されているカルテ等の資料に基づい て短期間で調査を行っていただいた。中には、調査対象資料が膨大なために現在も調 査実施中の医療機関もある。このため、とりあえず6月21日時点までの回答をまとめた ものである。 最終的なまとめは、残りの調査結果の回答が得られた時点で改めて行うこととする。 (3)調査に当たって、医療機関、都道府県・指定都市、関係団体、関係省庁などの協力を いただいたことに感謝する。 ■2調査の方法 (1)調査対象施設の把握方法 調査対象施設は、以下のアから工の方法で把握あるいは報告のあったものとした。 ア.薬事法第69条第1項の報告命令に基づき、血液凝固因子製剤の製造・輸入販売業者 及び卸売一般販売業者が納入先として厚生省に報告を行った医療機関 ※加熱血液凝固因子製剤の納入先として報告された医療機関についても、非加熱血 液凝固因子製剤が納入された可能性があるものとして含めている。 イ.文献調査によって非血友病患者に血液凝固因子製剤を投与したと考えられた医療 機関のうち、ア以外のもの ウ.平成7年度に行われた「HIV感染者発症予防・治療に関する研究班」又は厚生省に よる調査の対象となった医療機関のうちア及びイ以外のもの エ.自主的に報告してきた医療機関(ア、イ及びウ以外のもの) (単位:施設) 薬事法第69条第1 文献調査 平成7年度調査 医療機関によ 合 計 製剤の種類 項の報告命令 る自主報告 第IX因子 製剤 1216 3 39 4 1262 第VIII因 子製剤 1193 1 − − 1194 ※第VIII因子製剤については、平成7年度の調査では実施していない。また、同製剤に係 る医療機関からの自主報告は現時点では受けてない。 ※第IX因子製剤と第VIII因子製剤の両方が納入された医療機関は、第IX因子製剤が納入 された医療機関に含めた。したがって、第VIII因子製剤が納入された医療機関の施設 数は第VIII因子製剤のみが納入された医療機関として集計した。 (2)調査対象の非加熱血液凝固因子製剤 ○第IX因子製剤 (4種類) 販売名 会社名 承認年月日 承認番号 クリスマシン (株)ミドリ十字 昭和51年12月27日 51E830 コーナイン カッタージャパン(株) 昭和53年1月27日 53E輸63 (現:バイエル薬品(株)) ベノビール 日本臓器製薬(株) 昭和57年1月28日 57E輸131 プロプレックス 住友化学工業(株) 昭和55年5月15日 55E輸91 〃 日本トラベノール(株) 昭和58年5月23日 58E輸163 (現:バクスター(株)) ★ プロプレックスについては、製造工程中のエタノール処理によって、HIV感染の 可能性を否定することを示す資料が提出されているため、調査結果を集計する際には HIV感染の危険性がないものとして集計上取り扱うこととした。 ○第VIII因子製剤等 (8種類) 販売名 会社名 承認年月日 承認番号 コンファクト8 (財)化学及血清療法研究所 昭和53年8月1日 53E917 コンコエイト (株)ミドリ十字 昭和53年8月1日 53E915 コーエイト カッタージャパン(株) 昭和53年8月1日 53E輸70 (現:バイエル薬品(株)) クリオブリン 日本臓器製薬(株) 昭和53年8月1日 53E輸69 プロフィレート (株)ミドリ十字 昭和53年8月1日 53E輸67 ヘモフィルS 住友化学工業(株) 昭和53年8月1日 53E輸68 〃 日本トラベノール(株) 昭和57年7月27日 57E輸137 (現:バクスター(株)) ヘモフィルH 住友化学工業(株) 昭和55年3月4日 55E輸87 〃 日本トラベノール(株) 昭和57年7月27日 57E輸136 (現:バクスター(株)) ファイバ「イムノ」 日本臓器製薬(株) 昭和58年5月27日 58E輸166 (3)調査方法及び進捗状況 1.把握した全医療機関による実態調査 調査票を都道府県・指定都市を通じて医療機関に直接配付した。配付に当たって は都道府県等の担当者から調査の目的等趣旨を説明し、調査票に回答してもらう方 法をとった。なお、調査票は、医療機関から直接厚生省に送付してもらった。 2.調査項目 ・非加熱の第IX因子製剤・第VIII因子製剤受入状況 ・薬剤管理記録の状況 ・カルテの保存の状況 ・患者への輸注の有無 ・HIV検査の実施の有無 ・輸注の有無の確認方法 ・輸注された患者の状況 等 3.使用の有無の確認方法 薬剤管理簿等で非加熱血液凝固因子製剤の輸注の有無を確認し、輸注患者につい てカルテを調査する。カルテによる確認ができない場合は、他の記録や医師からの 聞き取り調査等により確認をする。 カルテ等で輸注の有無が確認できない場合の調査対象期間は、昭和53年を開始年 とし、最後に非加熱血液凝固因子製剤が納入された時点より2年後を最終年として確 認する。 4.調査依頼状況 第IX因子製剤関係 第VIII因子製剤関係 都道府県・指定都市への 4月15日 6月 3日 調査票配付等依頼 追加依頼(第1回) 4月19日 6月19日 追加依頼(第2回) 5月 1日 追加依頼(第3回) 5月22日 都道府県・指定都市から 4月16日〜 6月 4日〜 医療機関への調査票配付 5月14日 6月14日 医療機関から厚生省への 5月31日 7月15日 返送期限 (ただし、第3回追加分 は、6月15日) 5.第IX因子製剤調査票回答状況(6月21日現在) 調査対象1,262施設中1,163施設から回答があった。(回答率92.2%) ■3 調査結果の概要(6月21日時点での集計) (1)非加熱第\因子製剤の調査結果の概要図 +-調査完了---+---投与した施設 +−−HIV検査済み----+--陽性 I 1,163施設 I 292施設 I 224人 I 12人 I I 2,233人−−−−−+ I 調査対象施設+ I I +--陰性 1,262施設 I I +−−HIV検査未実施 212人 I I 2,009人 I I I I I I I +---投与していない施設--+-カルテ等による確認 I I 574施設 I 189施設 I I I I I +-全担当医に聞き取り確認 I I I 132施設 I I I I I +-一部担当医に聞き取り確認 I I I 25施設 I I I I I +-その他の関係者に聞き取り I I I 確認等 I I I 46施設 I I I I I +-血友病患者のみに使用 I I I 42施設 I I I I I +-加熱製剤のみの使用を確認 I I I +-投与状況不明---------+-カルテ等がないため I 297施設 I 214施設 +-調査中 I I 42施設 +-当時の担当医がいないため I I 15施設 I I I +-その他 68施設 I I +-調査不可能-+---廃院 57施設 I 38施設 I +---調査拒否 I 2施設 I +---製剤メーカー・卸業者の報告不正確 I 10施設 I +---その他(薬局・卸業者) 7施設 2)投与患者の実態 1.性別患者数 性別 人 男性 1,421 女性 772 不明 40 計 2, 233 2.投与時年齢別患者数 年齢階級 人 0歳 662 1〜4 53 5〜9 23 10〜19 39 20〜29 48 30〜39 108 40〜49 258 50〜59 393 60〜69 275 70〜79 156 80〜89 26 90歳以上 5 不明 187 計 2,233 3.原疾患別患者数 原疾患 人 肝疾患 838 新生児疾患 581 消化器疾患 296 心疾患 168 血液疾患 85 腎・泌尿器疾患 35 脳血管疾患 19 外傷 17 呼吸器疾患 14 産婦人科疾患 13 膠原病 13 その他 62 不明 92 計 2, 233 4.投与時期別患者数 投与年 人 1978年(昭和53年) 96 1979(54) 111 1980(55) 226 1981(56) 291 1982(57) 366 1983(58) 377 1984(59) 317 1985(60) 298 1986(61) 88 1987(62) 3 1988(63) 2 不明 58 計 2, 233 5.投与本数別患者数 本数 人 1本 592 2 334 3〜5 348 6〜10 266 11〜50 266 51〜100 26 101〜 8 不明 393 計 2, 233 6.投与製剤別患者数 製剤名 人 クリスマシン 1, 988 コーナイン 107 ベノビール 1 不明 137 計 2, 233 7.投与診療科別患者数 診療科名 人 内科 780 小児科 675 外科 667 その他 68 不明 43 計 2, 233 8.ブロック別患者数 ブロック名 人 北海道・東北 250 関東・甲信越 366 北陸・東海 472 近畿 372 中・四国 215 九州・沖縄 558 計 2, 233 9.HIV抗体検査の結果別患者数 HIV抗体検査結果 人 陰性 212 陽性 12 不明 2, 009 計 2, 233 検査結果不明例の状況(再掲) 人 死亡 1, 511 生存 215 不明 283 生存・不明(再掲) 498 小計 2, 009 生存・不明例の状況(再掲) 人 確認中 150 確認不能 27 検査拒否 6 その他 11 不明 304 小計 498 (3)HIV陽性例 性別 投与時年齢 投与製剤 投与時期 現在の状態 1 男 10歳未満 クリスマシン 84年2〜6月 エイズ患者 2 男 40歳代 〃 85年4〜5月 死亡 3 男 40歳代 〃 86年4月 死亡 4 女 新生児 〃 85年2月 死亡 5 男 10歳未満 〃 84年11月〜12月 エイズ患者 6 女 40歳代 〃 82年9月 死亡 7 女 30歳代 〃 85年6月 HIV感染者 8 男 50歳代 〃 85年7月〜10月 死亡 9 女 新生児 〃 85年10月 HIV感染者 10 女 10歳未満 〃 85年3月 HIV感染者 11 男 10歳代 〃 83年12月〜84年1月 死亡 12 女 30歳代 〃 84年10月〜11月 死亡 注1:上記以外にも第IX因子製剤によるHIV陽性例3例が報告されたが、 これらは先天性血液凝固因子障害(いわゆる血友病類縁疾患)の患者 であり、「HIV感染者発症予防・治療に関する研究班」において把 握しているため、集計上は血友病扱いとし、非血友病症例から除外 した。 注2:1〜5の症例は、平成7年9月の都道府県を通じた調査で把握されていた 症例である。 ■4 今後の対応 (l)調査のとりまとめ ・第IX因子製剤に関する調査については、調査中の医療機関からの回答が提出された 後、全体の内容を精査した上で、できる限り速やかに集計し、追加報告を行う。 ・また、第VIII因子製剤に関する調査については、7月半ばを目途に医療機関から調査 結果の回答を受ける予定であり、7月中にとりまとめを行う予定である。 (2)残された課題への対応方法の検討 今回の調査は、医療機関に残された資料等をもとに最大限の確認努力を行ったもので あるが、すべてを確認できるというものではなく限界を有するものである。したがって 次のような対応を図る必要がある。 1.HIV抗体検査未実施者への対応 ・生存中または生死不明の患者のうち498名が、HIV抗体検査未実施となっている。これ らの者のHIV感染の有無をできる限り早く把握することは重要である。 ・これらの者に対して医療機関が引き続き受診勧奨を行うよう、今後とも一層の協力を 積極的に要請する必要がある。 2.廃院等調査不可能な施設への対応 ・すでに廃院しており、今回の調査そのものが実施できなかった医療機関や、カルテ等 の記録が保存年限を超えていることから廃棄されるなど投与状況を確認する術のない 医療機関があった。 ・これらについては、今回の調査方法では確認が困難なため、医療機関名の公表を行っ て検査の受診勧奨を行うなどの対応方法の検討が必要である。 3.転居先不明など確認困難な例への対応 ・各医療機関において投与が確認できた患者のうち、転居先不明などにより連絡が取れ ない確認困難例もある。医療機関において追跡調査の努力が払われているが、必ずし もすべてを確認できるというものではないことから、これらについて、検査受診の呼 びかけ、医療機関の公表など適切なフォローアップの方法の検討が必要である。 以上の残された課題について、公衆衛生審議会のもとに調査小委員会を設け、具体的 な対処方法について速やかな検討が行われるよう依頼し、その結果をもとに適切に対応 していく必要があると考えている。 (参考資料) 1.平成7年5月 「HIV感染者発症予防・治療に関する研究班」による小児医療施設に おける調査 (平成7年7月6日公表) 対象施設 1325施設(全国の主な小児科医療施設) 回答数 824施設 非血友病患者への血液 凝固因子製剤の投与施設 37施設 投与患者 188名以上 HIV陽性例 3名 2.平成7年9月 厚生省による、血液製剤メーカーからの任意報告で把握された納入先医 療施設に対する都道府県を通じて行った調査 (平成8年4月3日公表) 対象施設 544施設 回答数 521施設 非血友病患者への血液 凝固因子製剤の投与施設 87施設 投与患者 376〜389名 HIV抗体検査受検者 61名 HIV陽性例 7名 ※1の調査によって把握されたHIV陽性例3名は、2の調査のHIV陽性例7名に含まれている 。