平成 8年 7月 1日 I 再発防止のための危機管理システムの構築 1.情報の収集、分析、評価、伝達体制の強化 ○ 医薬品、食品、感染症ごとに試験研究機関や省内に情報の収集、分析、評価、 伝達を行う専門部署を設置し、定期的な連絡会議を開催。 ○ 国立予防衛生研究所を国立感染症研究所(仮称)に改組する中で、内外の情報 の収集、分析、評価、省内への伝達に責務を有するとともに、対外的にも情報の 発信を行う専門部署を設置。 ○ 副作用モニター制度について、将来的にはすべての医療機関を対象にするよう 、計画的に対象医療機関を拡大。 2.厚生科学審議会(仮称)の創設 ○ 医薬品、食品、感染症等に関し、国民の生命や健康への危険が疑われる問題を 大局的見地から公開で審議し、提言を行う厚生科学審議会(仮称)を創設。 3.機動的、弾力的な政策見直し等 ○ 運営ルールを明示することによる審議会や研究班と行政との役割分担の明確化 並びに情報公開の推進。 ○ 回収命令、緊急輸入等の措置が的確かつ迅速に行使できるよう、行政権限行使 の発動条件等のマニュアルを作成。 ○ 機動的、弾力的に政策の見直しができるよう、政策決定の前提となった知見等 を公表。 4.情報提供、インフォームド・コンセント ○ 専門的な医薬品副作用情報等に国民がアクセスできる方途の確保等、多様な手 段を活用した国民、医療機関等への情報提供・公開。 ○ 血液製剤、新薬の治験、既存医薬品の適用外使用の場合等について、インフォ ームド・コンセントのガイドラインを設定。 II 透明度の高い薬事行政の確立 1.薬事行政組織の再編 ○ 薬事行政組織について、「治験、承認審査、市販後の安全対策等」と「研究開 発振興、生産・流通対策等」とを原則として組織的に区分して担当させる方向で 具体的に検討。 2.審査体制の強化 ○ 医薬品の審査体制については、「外部審査方式」も「内部審査方式」もそれぞ れに利点と問題点があるが、当面、外部審査方式によらざるを得ないことを踏ま え、中央薬事審議会の運営方法の改善と透明性の確保のため、以下の措置を実施 。 ・ 中央薬事審議会の常任部会の委員構成を他分野の専門家にも広げる。 ・ 医薬品の審査区分等中央薬事審議会の運営事項全般について明文化し、公表 する。 ・ 中央薬事審議会の審査内容の公開を進めるため、新薬については、承認後に 有効性や安全性に関する調査報告書を公表する。 ・ 全く新規の医薬品については、中央薬事審議会の常任部会における審査の前 に、有効性や安全性に関わる主要部分等を公表し、これに対して得られた意見 を常任部会に報告する 等 ○ 中央薬事審議会が専門的見地から審議に専念できるよう、審査担当官の計画的 増員、チーム審査方式の導入等事務局審査体制の強化。 3.治験における透明性と信頼性の確保 ○ 製薬企業、医療機関及び行政の責任の明確化を図り、今回法制化されたGCP (治験実施基準)の具体化等により、国際的に通用する透明で信頼性の高い治験 ルールの確立。 4.血液行政の見直し ○ 日赤をはじめ、幅広い分野からの専門家や有識者による検討の場を設け、血液 事業のあり方を検討し、立法措置を含め、総合的見直しを実施。
目 次 I はじめに .................................................................1 II 再発防止対策のために検討すべき課題 ......................................2 1.エイズや非加熱血液製剤の危険性についての情報収集、分析、評価 ...........2 2.政策決定プロセスにおける審議会や研究班と行政との役割分担や責任の明確化 .2 3.その後の知見の蓄積や状況の変化を踏まえた政策の見直し ...................2 4.国民や医療機関等に対する行政からの情報提供 .............................3 5.医療現場におけるインフォームド・コンセント、告知と二次感染への対応 .....3 6.治験、承認審査を始めとする薬事行政の見直し .............................3 7.血液行政の見直し .......................................................4 III 具体的な改革の方向 .....................................................5 1.情報の収集、分析、評価体制の強化 .......................................5 (1) 情報の収集、分析、評価体制の強化 ....................................5 (2) 組織内における情報の集中と伝達システムの確立 ........................5 2.審議会、研究班の活用と行政との役割分担、責任の所在 .....................6 3.知見の蓄積や状況の変化を踏まえた政策の見直し ...........................6 (1) 政策の機動的、弾力的な見直し ........................................6 (2) 省内の政策決定手続等の明確化 ........................................7 (3) 厚生科学審議会(仮称)の創設 ........................................7 4.情報の提供・公開システムの整備 .........................................7 (1) 国民に対する情報の提供と公開 ........................................8 (2) 医療機関、地方公共団体への情報提供 ..................................8 (3) 情報の提供、公開のための体制整備 ....................................8 (4) 製薬企業における情報の提供と公開 ....................................8 5.医療現場におけるインフォームド・コンセント .............................9 (1) 疾患等に応じたインフォームド・コンセントの推進 ......................9 (2) 診療記録(カルテ等)の開示についての取組み ..........................9 (3) 医療関係者の教育研修の充実 ..........................................9 6.医薬品行政における対応 .................................................9 (1) 現に使用されている医薬品の安全性の確保 ..............................9 1. 情報の収集、分析、評価 ............................................10 2. 対策の決定・実施 ..................................................11 3. 情報提供等 ........................................................11 (2) 治験における透明性と信頼性の確保 ...................................11 1. 今回法制化されたGCP(治験実施基準)の具体化 ....................12 2. 治験に関する情報の公表 ............................................12 3. 治験費用の支払を含めた製薬企業と治験担当医師の関係の公正及び透明性の 確保 ................................................................12 4. 治験データの信頼性の確保 ..........................................12 5. 国立病院における治験受入れ体制の整備 ..............................13 (3) 薬事行政組織の見直し ...............................................13 1. 審査体制の整備 ....................................................13 2. 薬事行政組織の再編 ................................................15 7.血液行政の見直し ......................................................16 (1) 効率的かつ透明な血液事業の総合的展開 ...............................16 (2) 使用の適正化と血液製剤の完全な国内自給の達成 .......................16 (3) 血液製剤の安全性の確保 .............................................16 IV 終わりに ...............................................................17 I はじめに 非加熱血液製剤により血友病患者等多数の方々がHIVに感染し、患者や家族の方 々にたとえようのない苦痛をもたらしたことは痛恨の極みである。これまでの薬害の 経験を的確に生かしきれなかったことを深く反省し、国民の生命、健康を守るべき責 務を改めて深く認識し、このような甚大な健康被害を再び発生させないために、今回 の事件を重い教訓として関連する行政のあり方を抜本的に見直さなければならない。 医学をはじめ関連科学は本質的に不確実な部分を内包しているものであるから、国 民の生命や健康と直結するような分野においては、常に鋭敏な危機管理意識を持ち、 国民の視点に立って、政策決定に最善を尽くすとともに、その後の知見の蓄積や状況 の変化等があった場合には政策を機動的、弾力的に見直していかなければならない。 本プロジェクトチームは、このような基本的認識に立って、甚大な健康被害を再び 発生させないための方策について、1.情報を収集、分析、評価し、政策決定や政策の 見直しにつなぐシステムのあり方、2.生命や健康に関する情報を国民や医療関係者等 に提供、公開するシステムのあり方、3.薬事行政について1.、2.を踏まえた具体的な 改善方策や薬事行政組織のあり方、4.血液行政のあり方、について検討を行い、報告 書を取りまとめた。 改善方策の検討に際しては、国会、厚生科学会議、マスコミをはじめとする関係方 面からのこれまでの指摘を踏まえ検討を行った。各方面の方々から説明を受け、資料 の提供があったが、これらについても参考とした。 報告書のとりまとめに当たっては、改善方策の具体的な検討を今後に委ねざるを得 ないものも多かったが、そのような場合であっても、可能な限り早期かつ確実に具体 策をとりまとめられるよう検討の方向を明記した。 なお、本件については、国会における真相解明のための調査審議や関係当局による 調査が継続して行われているところであり、また、第三者委員会による調査も行われ ることになっている。この報告書は、これらの調査結果が出る前であっても、可能な 限りの再発防止対策を講じることは必要なことであるとの視点から、現時点で再発防 止対策に役立つと思われる事項を取りまとめたものであり、今後、原因究明を踏まえ て逐次見直されるべきものである。 II 再発防止対策のために検討すべき課題 本件の経過は、「血液製剤によるHIV感染に関する調査報告書」(平成8年4月 26日)にまとめられているが、再発防止のために本件の経過に学ぶという立場に立 って現時点で振り返れば、次のような問題点と検討すべき課題を指摘することができ る。 1.エイズや非加熱血液製剤の危険性についての情報収集、分析、評価 ○ アメリカにおいて血友病患者のエイズ症例報告が行われて以来、未知の部分が 多い問題だけに、これに関する情報、特に海外情報が重要であったが、試験研究 機関を含む省内の情報の収集、分析、評価や伝達の体制が必ずしも十分でないと いう指摘があり、必要な情報が政策決定を行う部局に迅速に提供されるシステム を確立する必要がある。また、FDA(食品医薬品庁)、CDC(疾病管理セン ター)、WHO(世界保健機関)等との連携体制を整備していく必要がある。 ○ 昭和58年6月に厚生省担当課は製薬企業から、供血者が供血後にエイズ様症 状を呈したため、米国では製品の自主回収が行われ、日本でも原料血漿を用いた 製品を出荷停止としたとの報告を受けた。知見の蓄積が十分でない状況の下にお いては、危機管理の観点から、こうした情報も広く専門家の検討に供するという ルールを設定しておく必要がある。 2.政策決定プロセスにおける審議会や研究班と行政との役割分担や責任の明確化 ○ エイズ研究班や血液製剤小委員会は、非加熱血液製剤の継続使用の方向性を示 し、そのまま行政の施策となっている。重要な政策決定に結びつく検討をその責 任のない研究班に委ねたことや、権限と責任の明確な審議会に諮らなかったこと について問題とする指摘がある。 また、帝京大症例について、疑似症例を結論とした同研究班の検討経過、CD Cスピラ博士の診断の受け止め方、AIDS調査検討委員会での第1号症例に係 る議論の経過も判然としないという指摘がある。 審議会や研究班については検討事項に応じた人選や運営のルールを確立すると ともに、行政と審議会や研究班との役割分担や責任の明確化を図る必要がある。 また、政策決定へのかかわりがある場合には、検討経過を記録するとともに、結 果を公表する必要がある。 ○ 不確実な情報の下で政策決定を行う場合には、その後の知見の蓄積による再検 討に備えるためにも、前提となった諸条件、判断の理由を公表するとともに、行 政内部の責任の所在の明確化、文書管理の徹底を図る必要がある。 3.その後の知見の蓄積や状況の変化を踏まえた政策の見直し ○ エイズや非加熱血液製剤の危険性等に関しては、昭和59年5月の米国NIH (国立保健研究所)のギャロ博士による原因ウイルスの同定、同年9月の国際ウ イルス学会における概ねの認知、同年10月の加熱処理によるウイルスの不活化 効果の報告と徐々に解明が進み、昭和60年以降も知見が積み重ねられていった 。このような変化をフォローし検討する体制を整備し、知見の蓄積や状況の変化 を踏まえ、従前の政策について弾力的かつ機動的な見直しが確実に行われるよう なシステムを確立する必要がある。 ○ 加熱血液製剤の承認後の非加熱血液製剤の回収については、通達による回収は 供給に多大の影響を与え患者の治療に重大な支障を来たすおそれがあると考えら れたこと等により、製薬企業の自主回収に委ねられた。しかし、一部製薬企業に おいて回収措置が徹底されなかったため、長期にわたり、非加熱血液製剤が市場 に出回り、非血友病患者も含め、被害の拡大をもたらすこととなった。回収等の 措置が確実に実施されるよう行政権限行使の発動条件等をあらかじめ明らかにし ておくとともに、これらの供給や回収の状況報告等の重要な報告は、文書により 確実に行うように徹底する必要がある。 4.国民や医療機関等に対する行政からの情報提供 ○ エイズについては、当時の学術雑誌等に多くの関連記事があり、また、国内外 の医学雑誌は、エイズに関する論文は特別扱いで早く載せるという申合せがあり 、医療関係者もエイズに関してはかなり早くに知る機会があったという指摘があ る。しかし、実際は、医療従事者が必要な情報を常にもっていたわけではなく、 患者にも十分な情報が伝わっていたとは言えなかったという指摘もある。生命や 健康への危険に関する情報は、行政の対応策が整っていない段階でも公開し、ま た、行政から医療関係者等に対して積極的に情報を提供する必要がある。 5.医療現場におけるインフォームド・コンセント、告知と二次感染への対応 ○ 血液製剤小委員会が非加熱血液製剤を使用継続としたことについて、その場合 の患者におけるメリット・デメリット(エイズにり患する危険性と止血管理面の 有用性)とクリオ製剤に切り替えた場合のメリット・デメリットを比較考量した 結果であるとされている。このような情報は、医療現場に提供し、患者が主治医 と相談して自らの判断で対応できるようインフォームド・コンセントの推進を図 るとともに、医療関係者の教育研修のあり方を見直す必要がある。 ○ 抗体検査の結果、患者が感染しているにもかかわらず、医師が告知を行わなか ったため、配偶者等の二次感染を招く等の被害を生じたケースが報告されている 。適切な告知、説明が行われるようにさらに徹底を図る必要がある。 6.治験、承認審査を始めとする薬事行政の見直し ○ 加熱血液製剤の承認申請区分をめぐり、企業と厚生省担当者の間で意見交換が 重ねられていたが、認識の不一致等の不明な部分がある。また、治験のプロセス が不透明という指摘がある。したがって、この際、治験及び承認審査について、 透明性の一層の確保を図る必要がある。 ○ 医薬品の市販後の安全対策について、副作用や汚染に関する幅広い情報を迅速 に収集し適切に対応するための仕組みを構築する必要がある。 ○ 医薬品審査の厳格性を確保する等のため、審査体制の拡充を図るとともに、「 治験、承認審査、市販後の安全対策」と「研究開発振興、生産・流通対策等」と を原則として組織的に区分する方向で薬事行政組織のあり方を見直す必要がある 。 7.血液行政の見直し ○ 血液事業について厚生省と日本赤十字社との連携や血漿分画製剤の原料血漿の 海外依存の問題が指摘されたが、血液製剤の安全性の確保に努めるとともに、適 正使用を一層推進するため、血液行政組織のあり方も含め血液行政全般にわたる 抜本的な見直しを行う必要がある。 III 具体的な改革の方向 1.情報の収集、分析、評価体制の強化 生命や健康に直結する分野において不確実な情報の下で政策決定を行わざるをえ ない場合に、より適切な政策決定が行われるよう、できる限り迅速に情報の収集、 分析、評価や伝達を行う組織的な対応を強化する。 このため、省内担当部局や試験研究機関等について見直しを行い、役割分担や責 任の明確化、機能の強化を図る。特に、国立試験研究機関等における情報の収集、 分析、評価機能や情報、知見を集積するための機能の強化を図る。 (講ずべき方策) (1) 情報の収集、分析、評価体制の強化 ○ 国立予防衛生研究所については、国立試験研究機関の重点整備・再構築の一 環として国立感染症研究所(仮称)に改組し、保健医療行政の中で適切に位置 づけて、体制の整備充実を図る。 具体的には、感染症に関するサーベイランス等の一次情報から文献情報に至 る内外の情報を迅速に収集、分析、評価し、これを分かりやすい形で省内担当 部局へ伝達する責務を有し、対外的にも情報の発信を行う専門部署を設置する 。また、重大な危険のおそれがあると判断される情報を入手した場合に迅速か つ適切な対応を図っていけるよう、研究所内における情報の伝達及び意思決定 のシステムの整備と組織の役割の明確化を図る。 ○ 国立衛生試験所については、国立衛生科学研究所(仮称)として整備充実す る中で、収集、蓄積された情報について中長期的あるいは薬剤疫学の観点から の分析を行う部門の設置や、医薬品の品質、毒性等に関する研究情報の収集、 分析及び提供の充実を図る。また、医薬品の審査における国立衛生試験所の果 たすべき役割について今後の課題として検討する。 ○ 米国のFDA(食品医薬品庁)やCDC(疾病管理センター)、WHO(世 界保健機関)等海外の専門機関との連携を強化し、特定の政策決定に必要とな る焦点を絞った情報を、直接、迅速に収集する。このため、これらの機関との 人事交流、専門家会合等への積極的な参加等をさらに進めるとともに、特定の 機関との連絡窓口を設置することを検討する。 (2) 組織内における情報の集中と伝達システムの確立 ○ 情報の収集、分析、評価や政策決定を担当する部局間で定期的な連絡会議を 開催し、円滑な情報の流通を図る。特に重大な危険のおそれがあると判断され る場合には、緊急協議を行い、迅速な対応を図ることとし、その場合の条件、 組織、責任分担等をあらかじめ定めておく。 ○ 週報や月報等の方式や省内の「パソコン/LANシステム」の活用により、 収集、分析、評価した情報の省内の流通、回覧を図るとともに、それを蓄積し て情報提供を行えるよう、年報方式や電子情報化による工夫を行う。 2.審議会、研究班の活用と行政との役割分担、責任の所在 専門的、学問的知見に基づく検討のため、審議会や研究班を活用する場合には、 政策決定の最終責任はあくまで行政にあることを踏まえつつ、審議会や研究班と行 政との役割分担と責任の明確化を図るとともに、審議会や研究班の運営ルールを明 示し、情報公開を行う。また、政策決定のプロセス等について、後日検証可能なよ うに、現行の文書管理体制の見直しを行う。 (講ずべき方策) ○ さまざまな異なった立場から問題を分析し、検討してもらうため、審議会の委 員は、広範囲の専門家や有識者を選任する。 ○ 審議会の運営については、「審議会等の透明化、見直し等について」の閣議決 定(平成7年9月29日)を踏まえつつ、基本的にはそれぞれの審議会が決める べき事項ではあるが、生命や健康と特に密接な関係の深い審議会(公衆衛生審議 会、食品衛生調査会、生活環境審議会、中央薬事審議会)については、公開に関 する国際的な整合性、個人のプライバシーに配慮しつつ、また、自由闊達に意見 表明できるようにも工夫しつつ、議事録及び提出資料の公開を原則とし、個別の 行政処分に関わるものであっても、当該処分の内容、判断の根拠等の公表を行う こととする。 ○ 研究班については、専門的、学術的研究を行うために設置することを原則とす るが、例外的に政策決定に関わるような研究班を設置する場合については、上記 に準じた取扱いとし、研究班の設置要綱等において、その検討事項の範囲、責務 等を明確化し、これに適した専門家を幅広く選任するとともに、研究班と審議会 の役割分担の明確化を図り、できる限り法令に基づく審議会のシステムの中への 位置づけを図る。また、研究班の研究成果については、これを公表し、広く利用 できるようにする。 3.知見の蓄積や状況の変化を踏まえた政策の見直し 政策については、絶えず知見の蓄積や状況の変化等に基づき見直しを行い、機動 的、弾力的に変更、修正していく必要があり、そのための対策をシステム的に確立 する。 (講ずべき方策) (1) 政策の機動的、弾力的な見直し ○ 不確実な情報の下で政策決定を行った場合には、常にその前提となった諸条 件(例、政策決定に当たって考慮した諸要因、判断の前提となった知見の具体 的内容、制約条件等)をも合わせて公表する。 ○ 政策決定後の当該政策の実施状況や効果、影響、副作用等について追跡調査 するため、サーベイランスやモニタリングの体制を整備し、政策決定の判断の 前提となった諸条件が変化した場合には、速やかに政策の見直しを行う。 (2) 省内の政策決定手続等の明確化 ○ 省内、局内の政策決定手続を再点検し、ラインによる明確な意思決定と責任 分担、重要度に応じた政策決定のレベルや局議の位置づけ等について統一と明 確化を図る。 ○ 文書管理責任者の特定、文書種別に応じた保存期限の徹底、文書作成責任者 の明示等新しい文書管理システムについて検討を進める。なお、重要な政策決 定の際には、前提となった諸条件、判断の理由を明確にしておくことを検討す る。 ○ 国民の生命や健康の危険に直結する場合において、法に基づく各般の行政措 置が的確かつ迅速に行使できるよう、行政権限行使の発動条件、手続等のマニ ュアルを作成する。 (3) 厚生科学審議会(仮称)の創設 ○ 知見の蓄積がほとんどない段階であっても、安全性の問題が生じうると疑わ れる情報について、国民の生命や健康を確保するため、外部の有識者による幅 広い視点からの評価や省内担当部局の迅速な対応に結びつく提言を行う仕組み を設けることが必要である。 ○ このため、厚生科学会議(厚生大臣が開催する懇談会)を発展的に改組し、 医学、薬学、理工学、法律等の専門家、科学評論家等幅広い分野の有識者を委 員とする厚生科学審議会(仮称)を設置する。 ○ 厚生科学審議会(仮称)は、厚生科学に関する基本政策についての審議を行 うとともに、医薬品、食品、感染症等に関し国民の生命や健康への危険が疑わ れる問題を大局的見地から公開で審議し、提言を行う。 4.情報の提供・公開システムの整備 行政が把握した生命や健康への危険に関する情報については、その危険の程度が 不確実な段階でも、また、その程度の大小にかかわらず、多様な手段を使って迅速 に情報を提供、公開し、行政の基礎データについても、関係者や国民からのアクセ スの道も開かれたものとする。これによって、国民の選択や自己決定に資するとと もに、情報の広がりによって、新たな情報の発掘、収集につながる可能性も期待で きる。 (講ずべき方策) (1) 国民に対する情報の提供と公開 ○ 行政が把握した生命や健康への危険に関する情報については、マスコミを通 じて積極的に情報提供を行うとともに、インターネットにホームページを設け る等により、行政機関、医療機関等に提供されるものと同様の専門的な医薬品 副作用情報、感染症情報等に国民がアクセスできる方途を新たに確保する。な お、その場合、危険度の高い緊急情報については、優先的に認識されるよう工 夫を図る。 ○ 患者組織に対し、特定の疾患に関連の深い医薬品や治療方法に関する専門的 情報を提供することも視野に入れて、行政からの情報提供システムの充実を図 る。 (2) 医療機関、地方公共団体への情報提供 ○ 緊急事態に対応するためには、医療機関が副作用等の専門的な最新情報を迅 速に入手できることが不可欠であり、情報通信システムを通じ、医療機関側か らもアクセスできる方途を講ずる。 ○ 感染症等に関する緊急情報についても即時にシステム内の医療機関に対して 提供できるよう、「緊急医薬品情報伝達システム」(緊急ファックス)の整備 を行う。 ○ 都道府県、地方衛生研究所、保健所等に対しリアルタイムの情報提供を行う ため、WISH(厚生行政総合情報システム)を強化、活用する。 (3) 情報の提供、公開のための体制整備 ○ 情報の提供と公開を一元的、システム的に行うため、医薬品、食品、感染症 等の分野ごとに、その窓口となる部署を設定する。また、月報等を定期的に公 表したり、緊急性、危険性の高いものについては、特別の情報伝達ルートで提 供するなど、危険度や確度に応じた情報提供のルール化、マニュアル化を進め る。 ○ 情報公開の観点から、国民からの基礎データへのアクセスを可能とするため 、プライバシーや知的所有権を侵害したりするおそれのあるものを除き、分野 ごとにデータベースの構築に取り組むとともに、そのための体制強化を図る。 (4) 製薬企業における情報の提供と公開 ○ 製薬企業は、自ら取り扱う医薬品の品質、有効性、安全性について第一義的 な責務を有するというべきであり、製薬企業においてMR(医療情報担当者) による適切な情報提供が徹底されるよう対策を講じるとともに、製薬企業自体 において、医薬品に関するデータベースの構築、医療関係者や国民からのアク セスを可能にする情報通信手段の活用を図る。また、MS(医薬品卸販売担当 者)による医療機関に対する副作用等の情報提供についても推進を図る。 5.医療現場におけるインフォームド・コンセント 患者の医療ニーズの高度化・多様化等の変化を踏まえ、医療機関自らの情報収集 や国と製薬企業からの医療現場への十分な情報提供の下に、医師等から患者への十 分な情報提供が行われ、それに基づいて患者が自らの意思により選択できるように する。 (講ずべき方策) (1) 疾患等に応じたインフォームド・コンセントの推進 ○ 血液製剤は、副作用やウイルス等による汚染の危険性を常に内在しており、 厳重な製造管理が行われなければならないものであるが、このような特性を持 つ血液製剤の使用の際には、特にインフォームド・コンセントが十分に行われ るべきである。さらに、新薬の治験や既存医薬品の適用外使用の場合等におい ても同様である。これらのケースについては、ガイドラインを設定し、具体的 にその推進を図る。 ○ エイズやウイルス肝炎等については、疾病の管理のためにも、また、家庭内 感染等への対応のためにも、説明の内容、受容能力、告知後のフォロー体制等 に配慮した上で適切に告知、説明が行われる必要があり、ガイドライン等の設 定・定着を図る。 ○ 患者が特に副作用等に注意して使用する必要のある医療用医薬品については 、医師又は薬剤師が、製薬企業が用意する患者向け説明文書を患者に説明、交 付するような仕組みを定着させる。 (2) 診療記録(カルテ等)の開示についての取組み ○ カルテ等に記載された内容は、患者の診療内容等に関する重要な情報であり 、患者の求めに応じたカルテ等の診療記録の開示の問題について、その際の条 件、記録の保存方法及び保存期間のあり方等も含め、検討の場を設けることと する。 (3) 医療関係者の教育研修の充実 ○ 医療関係者が、インフォームド・コンセントに対する理解や副作用などを含 めた医薬品に関する基礎知識を十分持つようにするため、国家試験、卒後臨床 研修、生涯教育の各段階においてインフォームド・コンセント及び臨床薬理学 を取り入れる等の改善を図るとともに、医学教育及び薬学教育の改善について は、関係方面に改善を要請する。 6.医薬品行政における対応 (1) 現に使用されている医薬品の安全性の確保 医薬品は、医療を行う上で欠くことのできないものである一方で、使用に伴い 副作用の発生等一定の危険が本質的に内在していることから、現に使用されてい る医薬品については、幅広い危険情報を迅速に収集、分析、評価し、必要な対策 に結びつけていく必要がある。 (講ずべき方策) 1. 情報の収集、分析、評価 ア 副作用等のモニター制度の充実等 ○ 医療機関からの副作用モニター制度については、報告対象に医薬品によ る感染症の情報も加えるとともに、将来的にはすべての医療機関を対象に するよう、計画的に対象医療機関の拡大を図る。また、国立病院が使用成 績調査等の市販後の安全性の調査に積極的に協力できるよう、条件整備を 図る。 ○ 副作用等のモニター制度については、報告方法の工夫、報告様式の簡略 化を図るほか、報告対象範囲を医薬品を使用している患者の健康に関する 不審な情報全般に拡大するなど、欧米諸国における取組みも参考にしなが ら、副作用等の報告が積極的に行われるような方策を幅広く検討する。 ○ 治験医療機関は、治験医薬品に関して一般に情報の蓄積度も高いと考え られ、治験終了後はもとより、市販後もその副作用情報等について格別の 注意を払うべきである。このため、治験契約上、市販後も治験医療機関か ら製薬企業への医薬品に関する副作用情報の提供を条件とする等、副作用 情報の収集方法について改善を図る。 イ 製薬企業による市販後の安全性の調査の充実 ○ 新薬を製造、輸入する製薬企業は、当該新薬に関する副作用や感染症の 内外の情報及び販売停止等に関する海外の情報を収集するとともに、その 分析、評価を行い、PSUR(安全性定期報告)を作成して厚生省に提出 することを義務づける。 ○ 今回の薬事法改正で法制化されたGPMSP(市販後調査実施基準)の 具体化として、製薬企業による市販後の安全性の調査の実施体制の整備を 進めるため、社内にそれを担当する部門の設置等を義務づける。 ウ 情報収集等の拠点設置 ○ 薬務局の緊急対応のための一元的な情報担当部門を強化するとともに、 国立衛生試験所、国立予防衛生研究所に情報担当部門を設置し、薬務局と 一体となって安全性の確保の役割を果たすように位置づける。また、担当 部門間をオンラインで結ぶとともに、関連するデータベースを整備する。 エ 市販後の特別な調査・試験の実施 ○ 市販後も、保健衛生上の危害の発生を防止するという観点から、副作用 やウイルス等による汚染等について特別な調査・試験の実施が必要である と中央薬事審議会が認めた医薬品については、当該特別の調査・試験の実 施を承認条件とし、厚生省から製薬企業に対し、文書で明確に指示を行う 。また、承認後に公表される有効性や安全性に関する調査報告書にもその 旨を明示するとともに、医療機関に対してその旨を周知する。 2. 対策の決定・実施 ○ 副作用や汚染等医薬品による健康被害の発生・拡大が疑われる場合におい て、当該医薬品に対する必要な指示、薬事法に基づく回収命令、また、必要 な医薬品の緊急輸入等各般の措置が的確に行使できるよう、中央薬事審議会 、厚生科学審議会(仮称)の役割や行政権限行使の発動条件等も含むマニュ アルを作成する。 関連して、中央薬事審議会の専門性をより一層活用する観点から、医薬品 の有効性、安全性に係る問題に関する中央薬事審議会の提言機能を強化する 。 ○ 行政からの製薬企業に対する指示及び重要な依頼、製薬企業からの行政へ の報告については文書化するとともに、製薬企業に対する行政処分の基準の 明確化を図るなど、行政と製薬企業の関係の透明化を図る。 3. 情報提供等 ○ 緊急の副作用情報については、「緊急医薬品情報伝達システム」(緊急フ ァックス)による医療機関への即時の情報提供、関係行政機関による医療関 係団体等への情報提供、製薬企業からの緊急安全性情報(ドクターレター) の発行、マスコミを通じた国民への情報提供等、多様な情報提供手段により 重要度、緊急度に応じた的確な情報提供を実施する。また、このためのマニ ュアルを作成する。 ○ 厚生省において集約された副作用、感染症、治験、承認審査に関する情報 を医療機関等に提供するためのデータベースを医薬品機構に構築する方向で 検討を進めるとともに、医療機関に対する情報提供手段として重要な役割を 担っている医薬品の添付文書の記述について薬務局において内容の確認及び 指導を行い、承認審査及び市販後の安全性の調査を適切に反映させた情報提 供を行う。 ○ 患者等に対し適切な情報提供を行う観点からも、相談機能の充実強化が必 要であり、行政、医薬品機構、医療機関、民間団体等において、その責任と 役割分担を踏まえた相談体制の充実強化を図る。 (2) 治験における透明性と信頼性の確保 治験については、製薬企業、医療機関及び行政の責任の明確化を図り、国際的 に通用する透明で信頼性の高い治験ルールを確立する。 (講ずべき方策) 1. 今回法制化されたGCP(治験実施基準)の具体化 ○ 製薬企業自身の責任で適切かつ信頼性の高い治験が実施されるよう、治験 総括医師制度は廃止し、治験実施計画の策定や実施医療機関の選定について の製薬企業への助言は当該企業が設置する諮問委員会に行わせる方向で見直 すとともに、適正なモニタリング(治験実施中の進行状況の監視)及びオー ディット(治験実施後の治験全体の検証)の実施を義務づける。 ○ 被験者の人権保護や自己決定に資するため、被験者に対するインフォーム ド・コンセントの文書化を義務づける。 ○ 治験医療機関には治験審査委員会を置くこととし、必ず外部の非専門家も 参加するものとする。 ○ 治験時に得られた副作用やウイルス等による汚染に関する情報については 、厚生大臣に報告するとともに、治験実施医療機関へ周知することを製薬企 業に義務づける。 2. 治験に関する情報の公表 ○ 治験実施の届出制に基づき、厚生省に届け出られた治験実施医療機関名、 治験対象疾病名等の情報をできる限り公表する方向で検討を進める。ただし 、治験の実施それ自体が製薬企業の知的所有権、競争戦略等に関わる面もあ ることから、公表の範囲及び公表に関する手続について検討する。 治験を安全上の観点から中止する届出がなされた場合も公表する方向で検 討を進める。 3. 治験費用の支払を含めた製薬企業と治験担当医師の関係の公正及び透明性の 確保 ○ 治験に関し、製薬企業と医療機関の関係の公正及び透明性の確保を図るた め、行政、医療機関、製薬企業等による検討の場を設け、製薬企業と医療機 関の間のモデル契約を作成するとともに、業界団体に自主的に定めている治 験費用の支払に関する基準の見直しを要請する。 4. 治験データの信頼性の確保 ○ 治験データの統計学的な信頼性を高めるため、ガイドラインに基づき1施 設当たりの治験例数の最低数を遵守させる。 ○ 今年度実施を予定しているGCP(治験実施基準)の適用についてのモデ ル事業の成果を踏まえて、医療機関における治験の実施体制の整備を進める 。 ○ 医薬品機構の治験相談において、過去に問題のあった治験担当医師は、一 定期間治験から排除するよう指導する方向で検討を行う。 ○ 治験で得られたデータについては、全症例について、承認申請の際に提出 することを徹底する。 5. 国立病院における治験受入れ体制の整備 ○ 政策医療を実施する役割を担う国立病院の性格にかんがみ、国立病院が有 するネットワークを生かして治験を積極的に受け入れるべきであり、そのた めの条件整備を図る。 (3) 薬事行政組織の見直し 医薬品の審査体制を強化するため、中央薬事審議会の運営方法の改善及び透明 性の確保を図るとともに、事務局審査体制の充実を図る。 また、「治験、承認審査、市販後の安全対策等」の行政を一層厳格に実施して いくため、「研究開発振興、生産・流通対策等」の行政と原則として組織的に区 分する方向で薬事行政組織を見直すこととし、組織の再編成につき速やかに結論 を得ることとする。 1. 審査体制の整備 ア 審査方式について ○ 医薬品の承認審査を行う方法としては、わが国が現在採用している中央 薬事審議会を活用したいわゆる外部審査方式と米国(FDA)が採用して いる、多数の専門職員が基本的に自らの責任で審査を行う、いわゆる内部 審査方式がある。 ○ 外部審査方式については、 ・ 外部の専門家が有する最新の学術の動向、知識を取り入れて審査を 行うことができる ・ 数多くの専門家による評価を受けることができるので、片寄った判 断に陥るおそれが少ない 等の利点がある一方、 ・ 外部の専門家は、本来の業務を有していることから、当該業務との 関係で薬事関係企業との間の透明性の確保が必要である ・ 本来の業務を有する外部の専門家の負担が大きい 等の問題がある。 ○ 他方、内部審査方式については、 ・ 専任の公務員が審査を行うという点で、身分上、薬事関係企業との 関係が中立的である ・ 内部の審査担当官による詳細な審査、指導を行うことができる 等の利点がある一方、 ・ 対象疾病や薬効の異なる多種多様な医薬品を審査するために必要な 各般の分野にわたる多数の専門職員を確保する必要がある。また、専 門職員が絶えず最新の学術の動向、知識を吸収できる仕組みを構築し なければならない ・ 行政の簡素化の方向に反して、組織の肥大化を招くこととなる 等の問題がある。 ○ 以上のように、外部審査方式、内部審査方式はそれぞれに利点と問題点 を抱えており、どの審査方式が当然に優れているものとは言い得ない。要 は、最新の学問的知見に基づくとともに公正で厳格な承認審査が行われう る体制をいかに築いていくかということにある。 審査方式のあり方については、そうした視点に立ち、今後、常に見直し を行っていく必要があるが、現時点においては、わが国の公務員制度や官 と民の間の人材の流動性が乏しいという現状等に鑑みれば、行政が多数の 専門職員を常時確保することは容易でなく、当面、わが国においては、外 部審査方式によらざるを得ないものと考える。 その場合、外部審査方式の問題をできるだけ解消していくため、中央薬 事審議会及び事務局審査体制につき、次のような措置を講じていくことと する。 イ 中央薬事審議会の運営方法の改善と透明性の確保 ○ 中央薬事審議会の運営に関し、以下の事項を厳格に実行する。 ・ 薬事関係企業の役員、職員又は定期的に報酬を得ている顧問等は、個 別の医薬品の承認審査等に関与する中央薬事審議会の委員に任命せず、 任期中にこれらの職に就いた場合は、委員からはずすこと ・ 委員のうち承認審査等の申請資料の作成に責任を有するものは、当該 品目の審議・議決に関与しないこと ○ 中央薬事審議会の常任部会については、多角的、総合的な視点からバラ ンスのとれた判断が求められるため、有効性や安全性の専門家のみならず 、例えば、有識者として、理工学、法律等他分野の専門家を委員に加える こととする。 ○ 新薬については、中央薬事審議会における審議の内容、判断の根拠等を 明らかにするため、承認後に新薬の有効性や安全性に関する調査報告書を 公表する。 特に、全く新規の医薬品については、中央薬事審議会の常任部会におけ る審査の前に、有効性や安全性に関わる主要な部分及び審査資料の公表文 献(学会誌などに公表した新薬に関する論文)のリストを公表し、これに 対して得られた意見を常任部会に報告する。 ○ 中央薬事審議会が必要と認める場合には、中央薬事審議会が申請者から 直接説明を聴取する機会を設ける。 ○ 中央薬事審議会への諮問の要否、常任部会での審査の要否を含む医薬品 の審査区分等の明確化を図るとともに、中央薬事審議会の運営に係る事項 全般について明文化した上で公表する。 ウ 事務局審査の充実 ○ 中央薬事審議会が専門的な見地からの審議に専念できるようにするため 、事務局審査の一層の充実を図る。 ・ 厚生省内において医薬品の審査を行う担当官の計画的増員 ・ 事務局審査を多角的、総合的に行うために、薬学の分野のみならず、 医学、統計学等の分野の専門家によるチーム審査方式の導入 ・ 審査担当官の研修の充実、国立衛生試験所や国立予防衛生研究所の研 究者の知見の活用など、事務局審査の専門性の向上 ○ 事務局審査を行う上で必要な調査業務については、承認審査業務におけ る最終的な責任は厚生省が負うという基本的な前提の下にこれを医薬品機 構に委ねてきているが、調査機能の充実を図る等医薬品機構の体制を強化 するとともに、事務局審査体制の整備の状況を踏まえつつ、そのあり方に ついて中長期的課題として検討する。 2. 薬事行政組織の再編 ○ 「治験、承認審査、市販後の安全対策等」(医薬品の有効性及び安全性を 医療機関における治験結果や副作用等の報告に基づき不断に評価するととも に、医療現場における医薬品の適正使用を推進するための行政)を担当する 組織については、医薬品による危害の発生を防止する見地から一層厳格なも のとする必要がある。このため、薬事行政組織については、こうした「治験 、承認審査、市販後の安全対策等」と「研究開発振興、生産・流通対策等」 (医療ニーズに即応した優れた医薬品の研究開発を支援し、医療現場に対す る医薬品の適正かつ安定的な供給を促進するための行政)とを、原則として 組織的に区分して担当させる方向で具体的に検討することとする。 また、これらの薬事行政分野はいずれも医療と深く関わっており、最終的 には、国民に良質な医療を提供していくための手段として位置づけられるも のである。したがって、医療の中の医薬品という視点を明確にしつつ、こう した行政がより円滑に行われるよう、組織の再編成を検討し、速やかに結論 を得ることとする。 ○ 現在、薬事行政部局においては、各種職種により業務が行われているが、 職種ごとの専門性が政策に有効に反映されるよう、業務に応じ、各種職種の 弾力的でバランスのよい配置を図る。 7.血液行政の見直し 血液事業については、国、日本赤十字社、地方公共団体、製薬企業等の役割と責 任を明確にし、相互の連携を強化するとともに、血液製剤の使用の適正化や外国か らの輸入に依存する度合いが高いアルブミン製剤等の国内自給に向けての取組を一 層強化する必要がある。 また、ウィルス等による汚染等の危険性を完全に排除することが困難であるとい う血液製剤の特殊性を踏まえつつ、血液製剤の安全性の確保に努める必要がある。 このため、日本赤十字社をはじめ、幅広い分野からの専門家や有識者による検討 の場を設け、下記のような方向で血液事業の新たな展開に向けてのあり方を検討し 、できるだけ速やかに成案を得て必要な立法措置を講ずるとともに政策全般にわた る総合的な見直しを行う。 あわせて、製造物責任法制定時に指摘されている輸血による健康被害救済制度に ついても検討を進める。 (1) 効率的かつ透明な血液事業の総合的展開 ○ 日本赤十字社を血液事業の実施における第一義的な責任主体とし、国は血液 事業の総合的な指導監督を担当することとするなど、血液事業における国、日 本赤十字社等の役割と責任を立法措置により明確化する。あわせて、製薬企業 と日本赤十字社の関係についても検討する。 ○ 血液行政の特殊性を踏まえつつ効率的かつ透明な血液事業の総合的展開を図 るため、厚生省の組織の見直しや血液製剤に係る国家検定制度のあり方等を検 討する。 (2) 使用の適正化と血液製剤の完全な国内自給の達成 ○ 血液製剤の製剤別の適正使用基準について、対象製剤の拡大や疾患の特性に 応じた指針の作成を行うとともに、これを遵守させるための具体的方策を検討 する。 ○ 血液製剤の完全な国内自給の達成に向け、成分献血等の推進などの献血推進 方策、広域的、計画的な需給体制の確立や分画後のペーストの活用等の献血血 液の徹底的な活用方策などを盛り込んだ中長期的な需給計画を策定する。 (3) 血液製剤の安全性の確保 ○ 中央薬事審議会に血液製剤を介しての感染に関し専門に調査審議を行うため の体制を設けることを含め、厚生省の安全確保のための体制を整備する。 ○ ウィルス等がより早期に検出できる検査法の研究開発を推進し、その早期導 入を図るとともに、献血時の問診を強化する。 ○ 遺伝子組換え等の技術を応用した製剤や人工血液等の代替製剤の研究開発等 の推進を図る。 IV 終わりに 今回のような甚大な被害を発生させないために、本報告書で取りまとめられた改善 方策は、可能な限り早期にかつ着実に実行していかなければならない。また、今後と も各方面からさまざまな意見等が出されることが予想されるが、そのような意見や指 摘についても的確に受け止め、改善に生かしていくことが求められる。このため、定 期的に進捗状況を把握するとともに、追加的な課題への対応方策を検討することを目 的とするフォローアップのための体制を設けることが必要である。 なお、血友病以外の患者に対する非加熱血液製剤の投与によるHIV感染の問題に ついては、省内の「血液凝固因子製剤による非血友病HIV感染に関する調査プロジ ェクトチーム」により実態把握のための調査が行われているところであり、その調査 結果を踏まえて、必要な対策を講じるとともに、再発防止のための必要な改善方策に ついては、上記の体制において対応することが必要である。 国民の生命や健康に直結するような分野においては、通常より重く厳しい責任が求 められる。本報告書では、組織、システムの改革、改善から運営のあり方の改善まで 幅広く取り上げているが、これに全力で取り組むこととあわせて、担当する職員が強 い責任と鋭敏な危機管理意識を持って職務に従事することの重要性を、この際、再確 認する必要がある。