平成8年3月1日 1 経緯 小柴胡湯は江戸時代より胸脇苦満などを目標として使用されている漢方薬である。7 種類の生薬より成る配合剤で、湯剤、煎剤などで用いられていたが、現在ではあらかじ め水エキスを調製し、その後加工し顆粒などにした製剤が主として用いられている。医 療用医薬品としては、「慢性肝炎における肝機能障害の改善、慢性胃腸障害」等の適応 で使用されている。 本剤の副作用として慢性肝炎の患者における間質性肺炎の報告が知られており、平成 3年4月に添付文書使用上の注意の副作用の項に間質性肺炎がおこることがある旨を記 載し、さらに平成4年12月には間質性肺炎に関する注意を、副作用の項より上位の記 載項目である「一般的注意」の項に記載した。また平成4年3月以降、インターフェロ ンα類及びβの適応がC型慢性活動性肝炎に拡大され、小柴胡湯との併用により間質性 肺炎を起こしたとする症例が報告されたことから、平成6年1月にはインターフェロン α類との併用が禁忌とされている。 この間、小柴胡湯によると疑われる間質性肺炎については、医薬品副作用情報No.107 、No.118及び No.125に収載し、注意を喚起している。 今般、平成6年1月の改訂後、慢性肝炎の患者に、インターフェロンと併用されない 使用法で使用したにもかかわらず間質性肺炎が発現したとする症例が88例(うち10 例が死亡症例)報告されるに至った。(肝機能障害以外の患者は、情報不足のため判断 困難な回復症例1例)そのため、本件について中央薬事審議会の副作用調査会において 評価の上、次の対応を行うこととした。 (1) 医療用の小柴胡湯について、慢性肝炎の患者における間質性肺炎の発現を警告に 記載し、また緊急安全性情報(ドクターレター)を発行し、さらに医師ならびに肝 炎の患者自身に本件を周知し、十分注意を払っていただくこととする。 (2) 一般用医薬品の小柴胡湯については、間質性肺炎の報告は無く、また適応も「は きけ、食欲不振、胃炎、胃腸虚弱、疲労感および風邪の後期の症状」または、「胸 や脇腹が重苦しくて疲れやすく、交互的な悪寒、微熱、食欲不振、せきなどを伴う もの、感冒、胃腸カタル、気管支炎カタル」と異なり、肝臓に疾患のある患者は、 小柴胡湯の使用について医師、薬剤師に相談するべき旨を記載させる。 2 具体的な対応 (1) 日本肝臓学会 会員向けの学会誌および卒後教育講演会などを活用し、会員医師に対して、小柴 胡湯の安全で適正な使用のための知識や副作用発見の方法、必要な患者指導などに ついて周知徹底を図る。 (2) 日本肝臓病患者団体協議会 小柴胡湯による間質性肺炎の早期発見を図り、重篤な副作用に発展することを未 然に防ぐために、初期症状の知識や、初期症状は起こった場合には速やかに医師ま たは薬剤師に相談するよう会員に周知徹底を図る。 (3) 日本漢方生薬製剤協会・関係製薬企業 1) 添付文書の改訂 新たに小柴胡湯の医療用エキス製剤の使用上の注意に「警告:慢性肝炎における 肝機能障害の改善の目的で投与された患者で間質性肺炎が起こり、重篤な転帰に至 ることがある。」を記載するとともに、本件につき緊急安全性情報(ドクターレタ ー)を配布する。 また一般用、配置用の小柴胡湯のエキス製剤、生薬配合の薬局製剤については、 使用上の注意「次の人は服用前に医師または薬剤師に相談すること。」の項に、「 肝臓、心臓または腎臓に障害のある人」を記載する。 (4) 日本薬剤師会等 小柴胡湯の添付文書の改訂について、薬局・薬店への迅速な周知徹底を図るとと もに、消費者への服薬指導の徹底を図る。 (5) 厚生省 関係企業に対し、使用上の注意の改訂と緊急安全性情報(ドクターレター)の発 行の指導。 上記(1) から(4) について依頼する他、次々回の医薬品副作用情報No.137により、 症例紹介と情 報提供を行い、適正使用の推進を図る。