LAP

「いわゆるAIDS第一号患者」に関する
山崎委員長コメント


           「いわゆるAIDS第一号患者」に関する山崎委員長コメント
                                                            平成8年9月24日

 本日、エイズサーベイランス委員会において、「いわゆるAIDS第一号患者」につ
いて検討し、次のような結論に達した。

1 (社会的動き等も含めた「いわゆる一号症例」の評価)
  現在から振り返ってみるに、当時の論文発表、新聞報道等も勘案すると、昭和59
 年に厚生省AIDS調査検討委員会に最初の症例報告がある以前に、既にAIDSと
 疑わしい症例の論文発表等があったが、その後の調査で多くはHIV抗体検査が陰性
 であった。中にはHIV抗体陽性者であることが判明した例もあるが、これらの症例
  に関しては「厚生省HIV感染者発症予防・治療に関する研究班」の調査の中に含ま
  れていることがわかった。
   しかしながら、今回は同委員会に報告されたものについてのみ検討を加えることと
  した。

2 (当時の診断基準について)
  昭和60年当時、厚生省AIDS調査検討委員会においては、昭和59年3月に厚
 生省後天性免疫不全症候群(AIDS)の実態把握に関する研究班が作成した「AI
 DSの臨床診断の手引きAIDSの免疫学的診断の手引き」に基づき、報告のあった
  症例の検討が行われていたが、当該手引きは、AIDSの病態の解明が進められてい
  る中で作成されたものであり、
   1. 免疫学的検査結果及び日和見感染症等臨床症状の有無により判断し、現在の診
   断の基準のようにHIVのウイルス学的検査結果が明記されていないこと
  2. 正確な診断を行うために必要な具体的な合併疾病名、検査に関する数値基準を
    示していないこと
  等、現在の基準と比べて不十分なものであったと言わざるをえない。

3 (厚生省AIDS調査検討委員会への報告事例の検討)
  昭和59年当時、厚生省AIDS調査検討委員会に報告があった症例につき、いわ
 ゆる順天堂大学症例、帝京大学症例を含む最初の7例につき検討したところ
  1. 最初の4症例については、日和見感染症が存在しない例、Tн/Ts比が低下
   していない例、HTLVIII抗体検査結果が不明又は記載されていない例などであ
  ったことなどから、当時AIDSでないと判断されたことは妥当である
   2. 5番目に報告があった順天堂大症例、6、7番目に報告があった帝京大症例に
    ついては、それぞれ日和見感染症が存在する、Tн/Ts比が低下している、HT
    LVIII抗体、LAV抗体検査が陽性である等の理由により、同委員会で「AID
   Sである疑いが極めて濃い」と判断されたことは妥当であるとの結論に達した。

4 (総合的評価)
  したがって、当時のAIDSに関する医学的知見に乏しい状況の中で、AIDS調
  査検討委員会の判断は、当時の判断としては妥当であったと考えられる。
   AIDS患者については、当委員会への報告順で考えれば、いわゆる順天堂大学症
  例が報告の第一例目であり、また、当委員会への報告例の中での発症順で考えれば、
  帝京大症例の方が古いことになる。

------------------------------------------------------------------------------

                      「第1号患者」認定時期の動き

昭和58年 6月   徳島大症例が日本小児科学会徳島地方会で発表される。(同年7月
         12日に新聞報道された2名については、平成元年3月頃に1名はH
         IV感染者であることが、1名はHIV感染者でないことが判明)
     7月初旬 徳島大症例が四国医学会で発表される。
     7月 5日 報告例6死亡
         7月12日 徳島大学2症例が新聞に掲載される。
         7月18日 厚生省後天性免疫不全症候群(AIDS)の実態把握に関する研究
                  班が報告例6を「ステロイドホルモンを使用しており、また、カポ
           ジ肉腫も認められていないのでAIDSとはいえない」と認定。
     7月30日 LANCETに高知医科大学グループ論文「ATLV IN JAPANESE PATIENT
                  WITH AIDS」が掲載。(後にHIV感染者でないことが判明)
     8月16日 高知医科大学症例が新聞に掲載される。
昭和59年 3月      厚生省後天性免疫不全症候群(AIDS)の実態把握に関する研究
         班が「AIDS臨床診断の手引きAIDSの免疫学的診断の手引き
                  」を発表
         「血友病患児の免疫学的検討」及び「補充療法中の血友病患者にみ
         られるT細胞サブセットの機能異常」が掲載された「厚生省特定疾
         患『免疫不全症候群』に関する調査研究班昭和58年度研究報告書」
         が出される。(後者の論文に掲載された14症例のうち、数例がH
           IV感染者であることが後に判明)
     9月28日 第1回AIDS調査検討委員会
          議題 今後の委員会の進め方について
    11月10日 報告例3.死亡
    11月27日 報告例7.死亡
       11月29日 第2回AIDS調査検討委員会
          議題 検査機関の選定について
    12月28日 新潟県より報告例1.及び2.についての調査票受理
昭和60年 1月 7日 東京都より報告例3.についての調査票受理
     1月17日 東京都より報告例4.についての調査票受理
     2月21日 第3回AIDS調査検討委員会
          報告例1.否定(後にHIV感染者でないことが判明)
          報告例2.否定(後にHIV感染者でないことが判明)
          報告例3.検討継続
          報告例4.否定(後にHIV感染者でないことが判明)
         2月22日 東京都より報告例5.についての調査票受理
     3月22日 第4回AIDS調査検討委員会
          報告例3.否定(HIV感染者であったかどうかは不明)
          報告例5.(いわゆる順天堂大症例)「AIDSである疑いが極め
          て濃い」(後にHIV感染者であることが判明)
     4月 2日 東京都より報告例6.及び7.についての調査票受理
     5月30日 第5回AIDS調査検討委員会
          報告例6.(いわゆる帝京大症例)及び7.「AIDSである疑いが
          極めて濃い」(後にHIV感染者であることが判明)


  問い合わせ先 厚生省保健医療局エイズ結核感染症課
     担 当 今村(内2376)、杉江(内2375)
     電 話 (代)3503-1711
                  (直)3591-3060



RETURN TO厚生省・サーベイランスメニューに戻る