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勉強会報告
「PWAの医療環境の現状と今後」[2]

よしおか & うえき 

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LAP勉強会「PWAの医療環境の現状と今後」報告の2回目です。今回は「日和見感染症の治療法」「患者の側から見た医療環境の問題点」等についてのお話や議論の内容を中心にご紹介したいと思います(一部古くなった情報を訂正し、新しい情報を加筆しました)。  勉強会に講師として来てくださったのはSHIP(ステイ・ヘルシー・インフォメーション・プロジェクト)代表の井上洋士氏でした。SHIPは、HIV感染症に関する医療や生活についての情報をPWA自身にわかりやすく解説したSHIPニユースレターを隔月で発行しているグループです(詳細は8号をご参照下さい)。

◎日和見感染症の治療について

 現在、日本では二三の疾患が日和見感染症として定められています。その一つ一つにこの紙面で解説を加えることはできませんが、井上さんのお話の中から主なトピックスをご紹介します。

■日和見感染症とは

 HIV感染症の治療ではまず、免疫力の低下をできるだけ抑えていくことが重要です。免疫力を測る一つの指数であるCD4が五〇〇〜四〇〇を切るようになったらAZTやddI等の抗HIV薬を服用して免疫力低下を抑え、コントロールしていくことがたいへん重要になってきます(詳細は8号参照)。しかし、免疫力が一定以上落ちてくると、免疫力があるうちは問題にならないような病原体が悪さをはじめるようになってきます。
 このようにいつもは大人しくしているのに、免疫力が落ちてくるのを見はからって悪さをはじめる病気のことを「日和見感染症」といいます。

■カリニ肺炎は、ほぼ100%予防できる

 現在では多くの日和見感染症が治療可能になっており、患者の予後は改善されてきています。
 日和見感染症がいつ出てくるのかもCD4との関係がほぼ明らかになっており、カリニ肺炎などは「CD4が二○○を切ったら予防を始める」というのが多くのHIV診療医の常識となっています。カリニ肺炎の予防はほぼ一○○%に近い効果があるので、きちんとした予防をしていればカリニ肺炎を発症することはまずありません。
 ちなみに血液凝固製剤による感染者と性交渉による感染者とでは合併する感染症の出方にある程度違いがあるのではないかと経験レベルで指摘する医師もいます。
 例えば悪性リンパ腫は血液凝固製剤による感染者に比較的多く見られるのに比べて、肝膿瘍は性交渉による感染者に比較的多くみられるようです。

■治る病気なのに…

 日和見感染症の治療は日々進歩しています。体重が急激に減少しても元気に回復する例も多く、医学の力を見せつけられるような思いです。
 しかし、医師などの医療従事者、そして患者本人や患者を支えている人たちがこうした「事実」をちゃんと知っておくことが大切です。治癒の確率が高い日和見感染症にかかっているのに、まわりが「どういう死を迎えさせてあげたらいいのか」ということばかりに頭を抱えている、という話もあるようです。
 HIV感染症に対する決定的な治療薬が登場していない現時点において、医療に過剰な期待をするのも問題かも知れませんが、少なくとも治る日和見感染症が多いことは知っておくとよいでしょう。

■非定型抗酸菌症(MAC、MAI)

 MACとかMAIといった非定型抗酸菌が引き起こす感染症です。この菌は結核菌の仲間ですが、抗結核薬の治療効果はあまり高くありません。クラリスロマイシンという薬を大量に服用するとよいようです。しかし、この薬も非定型抗酸菌症の治療に対しては現在臨床試験中です。
 治っても再発しやすいので注意が必要です。

◎サイトメガロウイルス網膜炎

 日和見感染症の一つであるサイトメガロウイルス感染症は眼の網膜に炎症を起こすことが多く、治療せずにいると進行して2カ月程度で失明をまねきます。QOL(生活の質)の維持にもかかせない「網膜炎」の治療について井上さんは特に時間を割いて説明してくださいました。

■サイトメガロウイルス感染症

 サイトメガロウイルス感染症とはCD4が五○以下で起こりやすくなる日和見感染症の一つで、サイトメガロウイルスが眼や肺、食道、大腸などに炎症を起こします。ガンシクロビルかフォスカーネットという薬で治療に成功することも多くなってきました。ガンシクロビルには貧血など骨髄抑制の副作用があります。フォスカーネットは日本ではまだ未承認ですが、すでに今年から臨床試験が始まっています。腎機能障害が最大の副作用で、比較的使いにくい薬と言われています。
 HIV陽性者は網膜炎を起こすことが非常に多く、早期に治療をしないと失明するため、CD4が二○○を切ったら定期的に眼科の診察を受けることが重要です。治癒しても再発しやすいため週5回程度の点滴が必要になります。この点滴の回数を減らす方法も試されていますが、週3回では再発防止の効果はあまりないようです。

■眼注(硝子体注射)

 HIV陽性者に多くみられるサイトメガロウイルス網膜炎については眼に直接薬を注射する眼注(正式には硝子体注射)という治療方法も試験的に一部の医療機関で行われています。眼に注射をすると聞くと心理的にはこわい感じがするかも知れませんが、麻酔を使い、注射自体は一瞬で終わります。また痛みを訴える患者もあまりいないようです。
 眼注は眼以外でのサイトメガロウイルス感染症には効果がないものの、治療が週に一度から二週に一度でよく(入院の必要がない)、また全身の副作用がない、薬への耐性ができにくいというメリットがあります。サイトメガロウイルス感染症の治療は副作用と耐性のたたかいとも言われます。そうした中、この眼注は非常に有効な治療方法といえます。
 一方デメリットとしては網膜剥離の可能性があることが挙げられますが、レーザーによる凝固をすることで最低限に防ぐことができます。また、細菌性の感染が眼の中に稀に起こることがあります。眼注を行う場合にはこれらのデメリットも充分に考慮にいれなければならないでしょう。

◎医療環境の向上のために

 勉強会の終盤に会場の参加者から発言があり、どうしたらよりよい治療を受けられるようになるのか、という議論が活発にされました。

■「患者からの働きかけが有効では」

 患者側からの働きかけがよりよい医療を受けるための有効な方法の一つではないかという意見が出されました。例えば「こうした治療もあると聞いたのですが」「SHIPにこんなことが書いてありました」など、積極的に医師に働きかけていくといいのではないかという意見です。
 また、転院などが解決方法として容易に考えられるものですが、まずは自分の今かかっている病院で医師に働きかけるということも重要ではないか、との意見も出されました。

■今後のSHIPの活動

 SHIPの活動にはまず医療情報の提供という大きな柱があります。
 残念ながらHIV感染症は新しい病気ですから、その治療レベルには病院間で格差があるようにも思われます。また、新しい薬や治療法、検査法などが毎年どんどん出てきています。SHIPではニュースレターを通じて、全国のHIV陽性者にもなるべくわかりやすい形でそうした医療情報を提供しています。全てを医師任せにするのではなく、患者の側も積極的に情報を集め、自ら治療方法などを選択していくことが重要な場面もあります。
 今後もSHIPでは主に情報面からのバックアップを続け、HIV陽性者がより充実した医療環境に接することができるよう、地道に活動を進めていきたいと思います。


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