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アジア太平洋地域エイズ国際会議報告

志麻みなみ(T-GAP)

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 チェンマイで開かれたアジア・太平洋地域のエイズ国際会議。もう随分時間がたってしまったようですが、考えてみればつい9月のこと。その報告/レポートはみなさんもうすでにいろいろなところで見かけていることでしょうが、ここではまた少し違った角度からご報告したいと思います。

 

■この会議には二つの「意味」があった

 まず最初に会議の意味について少し考えてみましょう。たくさんの人々が世界各国から集まってくる国際会議。その中心となるのは、もちろん文字通り会議なのですが、単なる情報の交換のためならインターネットというとても便利なものさえある今日、わざわざ多くの人が一堂に会す必要はかならずしもないようです。そうなると、コンピューターの画面でも、本でも、新聞でも得られないもの、それは何でしょうか。
 まず一つには、直接顔と顔を合わせた暖かみのある人々の交流です。これは媒体を通してはどうしても伝わりにくいものです。そしていま一つは、どう言えばいいのでしょうか、その場の熱気、そして情熱! エイズやHIVに関する問題に対する熱い思いを共有すること、これも国際会議でないとなかなかできないことだと思います。
 その意味では、今回のチェンマイでの国際会議、いろいろな評価がなされているようですが、私はきちんとその役目を果たしたと思っています。世界各地52ヶ国から三〇〇〇人が参加。会期が終わる頃には、国境を超えた人の輪も断然広がったのではないかと思います。
 また参加した人ではないとわからない、あの独得の高揚感。それぞれのエイズ/HIVに対する熱い思いがすこしずつ集まってひとつの渦のようなものを作っていた、今ではそんな気さえしています。
 CSW(コマーシャル・セックス・ワーカー:性産業従事者)の分科会はまさにその意味ではホットなものの1つでした。たしかに議論の整理に多少の問題があったものの、会議場は独得の雰囲気にさえつつまれていました。

 

■コマーシャル・セックス・ワーカーの分科会

 職業選択の一つとしてのCSWの認知をもとめる南アフリカからの参加者は「かわいそうな人に施しをみたいな活動は、もうごめんだ!」と声を荒げ、NGOに対して猛省を促しました。単にケアをあげる/もらうという公式はもはや終わっていると言わざるをえないということです。耳の痛いことばですね。常に主役であらなければならない人を不在にしたままで、すべてが進んでしまっていたのではないでしょうか? もしそうだとしたら、すぐにでも軌道修正しなければなりません。もう一度自分たちのスタンスを検討してみる必要があることを痛感させられます。
 また、CSW自身に、そして誰よりPWA自身にもっと発言の機会をもとめるという意見が出されたのもこの分科会。国際会議にどうして当事者がもっと招待されないのか、という素朴な疑問は参加者の共感を呼び、次回の会議に向けた署名活動にまでそれは発展しました。その主張も、もちろん十分に理解できるものでしたが、やはりそこで印象的だったのは、そういったことが署名活動にまで発展したということ。なんとかしなければ、という思いがとても強く伝わってきました。
 またもうひとつ注目すべきだったのは、セクシュアリティの分科会。

 

■多用な性を持ち合せているアジア・太平洋地域

 もともとアジア/太平洋地域には多様な性の形があったのですが、今回もそれを再確認。マレイシアからのTS(トランスセクシュアル)のパネラー、フィリピンのバクラ(TG)、自らゲイとアイデンティファイしないゲイの存在、本人はレズビアンでも職業は男性を対象としたCSWの報告など、まさに多様な性のあり方がつぎつぎとレポートされました。
 そこではマイノリティ/マジョリティという従来の考え方が、もうほとんど有効性をもちにくいことが、具体的な例をもってハッキリと示されたのでした。その分脈から、分科会のタイトル「Alternative Sexuality(もうひとつのセクシュアリティ)」も、次回の会議からは使われないという決議がなされました。というのも「もうひとつ」という言葉には、正しいもの、本流のものというニュアンスがあるからです。エイズの問題を考えるには、STDという性格上、セクシュアリティに対する公正な見方がかかせませんが、そのためにも大いに意味のあることです。

 

■多彩なテーマについて率直に議論された

 他の分科会でもとても率直な議論が交されていました。  例えばヘルス・ワーカーのためのエイズ教育のセクションでは「医師にこそエイズ教育が必要」という声が聞かれたり、あるセクションではHIVに感染した子供のケアが熱心に報告されていました。
 PWAの役割と題された分科会でも、ますます増えつつある役割の重さに、PWA自身よりもむしろ周囲が気付くべきであるという指摘がなされました。この他にも議論された分野はとてもここに書き切れるようなものではありません。エイズの経済的影響から、国策としてのエイズ予防、コミュニティとの橋渡しの方法、そして医学的なテーマなどです。
 今回の国際会議では、私個人だけではなく、参加者全員それぞれが、いろいろなことを学べたように思います。
 そして、なにより大切なことは、それを私たちの普段の活動にどのように取り入れていけるのかということ。ただ万国博覧会を見てきたというのとは訳が違うのですから、ほんとうに問われるのはこれからなのです。

[志麻みなみ(T-GAPコーディネーター)]


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