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エイズ以外の性感染症について[4]

日本感染症学会会員 福田光 

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■12 ウイルス肝炎(前編)

(1)肝炎ウイルスの種類

 肝炎ウイルスに限らず、サイトメガロウイルス(CMV)やEBウイルス(EBV)など、様々なウイルスが肝炎を引き起こすが、これらのうち、肝細胞内で増殖するウイルスを肝炎ウイルスと呼び、現在、A型肝炎ウイルス(HAV)からE型肝炎ウイルス(HEV)までの5種類が確認されている。この他にもF型肝炎ウイルス、G型肝炎ウイルス、GBウイルスなど、いくつかのウイルスが存在すると考えられており、順次確認されるものと予想されている。
 肝炎ウイルスは、流行性肝炎(伝染性肝炎)を引き起こすA型肝炎ウイルスとE型肝炎ウイルス、血清肝炎を引き起こすB型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)の2タイプに大きく分けられる。
 流行性肝炎は、感染者の糞便中にウイルスが排出され、糞便により汚染された水や食物を摂取することによって新たな感染が生じる。原則として、一過性の急性肝炎で終わり、まれに死亡することもあるが、多くは自然に治癒する。E型肝炎は、東南アジア等で感染し、帰国した例が少数見い出されているに過ぎないが、A型肝炎は、日本国内での毎年のように小規模の流行が生じ、10万人以上の患者が発生している。
 血清肝炎は、感染者の血液、精液等を介して新たな感染が生じる。B型肝炎は、成人が感染した場合には一過性の急性肝炎で終わるのが普通であるが、小児が感染した場合には、持続感染を生じてキャリアとなり、長期間の潜伏期を経て、慢性肝炎から肝硬変、肝がんへと進行することがある。また、C型肝炎は、小児のみならず、成人が感染してもキャリア化することが多く、B型肝炎よりも高頻度に肝がんへ進行する。
 なお、D型肝炎ウイルス(HDV:かつてはデルタ肝炎と呼ばれていた)は、B型肝炎ウイルスの持続感染者のみが感染する特殊なウイルスで、血清肝炎を起こすが、日本では感染者は少ない。

(2)A型肝炎

[ア 症状]
 感染から平均28日の潜伏期を経て、ほとんどの症例で38℃以上の発熱により、急激に発病するのが特徴である。全身倦怠、食思不振、悪心嘔吐などが通常半数以上に認められる。また、腹痛、下痢、頭痛、咽頭痛などの感冒様症状もしばしば認められる。黄疸は、成人ではほとんどの場合認められるが、小児では1/4程度にしか認められない。さらに、小児では、一般に全身症状も軽く、下痢等の消化器症状が目立つため、感冒、風邪などと診断されていることも多い。
 A型肝炎の予後は一般に極めてよく、そのほとんどは1〜2か月で肝機能が正常化し、特に小児では、症状が軽く、回復も早い。6か月以上にわたって血清トランスアミナーゼが異常価を示すものも、まれに認められるが、いずれも最終的には正常化している。すなわち、A型肝炎には病原ウイルスの持続感染がなく、慢性肝炎、肝硬変、肝がんへの移行はない。
 ただし、成人では、約1%に劇症肝炎が発生し、近年では、劇症肝炎の半数以上をA型肝炎が占めているが、予後は比較的良好である。比較的高頻度に急性腎不全を伴うこともA型肝炎の特徴であり、その原因として免疫複合体の関与が考えられている。
 感染後には免疫が成立して抗体が産生され、再感染は生じない。IgMクラスの抗体は3〜5か月後には消失するが、IgGクラスの抗体は終生持続する。IgAクラスの抗体は数年持続する。

[イ 病原体]
 A型肝炎ウイルス(Hepatitis A virus:HAV)は、直径27nmの球型のウイルスで、一本鎖の線状RNAを持つ。熱に対する強い抵抗性(60℃、60分の加熱でも安定。1MのMgCl2が存在すれば70℃でも不活化されない)を有する。エーテル、酸(pH3・0)に対しても安定であるが、一〇〇℃5分間の加熱処理によっては不活化される。
 また一般のウイルスと同様に塩素あるいはホルマリン処理、紫外線照射などによっても感染性を失う。感染肝細胞の細胞質中で増殖する。肝臓にのみ強い親和性を持ち、肝細胞以外の細胞、肝臓以外の臓器、組織での増殖は明らかでない。培養細胞での増殖も一般には極めて悪い。

[ウ 感染経路]
 HAVの糞便中への排泄は、臨床症状が出現する2〜3週前から血清GPTが極値に達するころまでの潜伏期の後半から発病初期にかけて起こる。通常は、HAVを含んだ糞便に汚染された食物、水を経口的に摂取することにより感染する(糞口感染fecal-oral infection)が、性行為時に相手の肛門周囲を舐める等の行為を行っても感染する。このため、アメーバ赤痢と同様、A型肝炎もSTDの一つと考えられるようになっている。
 しかし、発症後のHAV排泄量は発症前に比べて著滅することが知られており、GPT値の上昇がピークを過ぎ、黄垣が出現し始める時期には、すでに他人への感染力は低下している。
 一方、HAVの糞便中への排泄時期に一致して血中にもHAVが出現するが、その量は糞便中に比べて、はるかに少なく、また出現期間も短いため、血液を介して感染が生じることはない。また、精液を介して、性行為時に感染することはないが、発症直後の患者の唾液を経口的に摂取することによって感染が生じたとの報告はなされている。

[エ 診断]
 かつては、急性期と回復期の患者のペア血清によって、肝炎回復後のHA抗体価の有意の上昇を証明するか、発病ごく初期の患者糞便中に HAV粒子を免疫電顕法により検出することによって、診断していた。
 現在では、血中に出現するIgMクラスのHA抗体、または糞便中に出現するIgAクラスのHA抗体を検出することによって早期に、かつー時点での測定によって、A型肝炎の診断を行うことが可能となっている。さらに、血中のIgAクラスHA抗体測定用のRIAキットも販売されており、A型肝炎の血清学的診断が広く、これらの方法によって行われるようになっている。ただし、これらの抗体は、肝炎の症状が最も重篤となる時期(血清GPT値の極期)の少し前から出現するが、約3〜4か月後には血中から消失することが知られており、その測定時期について注意する必要がある。

[オ 疫学]
 全世界に散発性あるいは流行性に発生し、特に環境衛生あるいは個人衛生が不良な地域や施設内に多発する傾向が認められてきた。幼若年層に好発し、西欧各国では秋から冬にかけて好発するが、日本では2〜5月に好発する傾向がある。
 全国各地の住民におけるHA抗体の保有状況を年齢階級別に検討した成績によると、40歳以上の年齢層では大部分が抗体を保有しているのに対して、それ以下の年齢層では保有率が次第に低下し、20歳末満では極端に低くなっている。これは、日本国内では、HAVの感染が約20年前から激減し、感染機会がほとんどなくなったためである。
 一方、東南アジア諸国などの開発途上国では、A型肝炎がなお常在伝染病となっており、すでに幼小児期からHA抗体を高率に保有しているのが認められる。これらの地域への旅行者あるいは長期駐在者に対する感染予防が重要問題となっており、予防ためのワクチンも開発されている。

■参考文献

▼「ウイルス肝炎予防ハンドブック」財団法人ウイルス肝炎研究財団編集、社会保険出版社発行、昭和61年6月
▼「肝炎-増補C型肝炎」鈴木宏編集、高久史麿監修、南江堂発行、一九九一年九月
▼「微生物と感染症-21世紀への歩み」臨床と微生物第20巻増刊号、近代出版発行、一九九三年一一月


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