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PWAの恋愛日記
僕たちの場合[最終回]

大日向 望 

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 ■第3章 甘い関係なんて…

- パートナーがPWAというカップルってどんな感じだと思いますか? 身体のことを心配してくれる、すぐ手をさしのべてくれる、病院に付き添ってくれる……。ハイハイ、そんなのは小説かドラマの話だけですよ。身体のことを言ったって『あ〜そ〜、た〜いへ〜ん』、病院なんて一緒に行ってくれたことなくて『ああ、今日病院だーったんだ〜』(パートナーの言い回しを活字にするのは難しいんだけど、文字にするとこんな感じです)、ちょっとボーッとしてれば『これ、やーっといてくれる』って、あまーい生活なんて夢の話です。でもそれはパートナーなりに病気のことを気にさせないようにと考えてくれてのことで、あんまり病気のことばかり心配してくれるのもうれしくないなと思うのです。でも最初の頃はこのことでちょっとギクシャクした時もありました。

◎感染していることをダシにしては…

- パートナーに対して、〃僕がPWAであることを知っている〃、ということをいいことに、ずいぶん無理な甘え方をしたように思います。なにをするにしても、例えば、頼まれ事をされても、逢いたい時に逢えない時でも、声に出して言った記憶はないんだけど、「僕はHIVに感染していて、とってもつらいのに…」という態度をあからさまにオーラにして出していたはずです。今思えばあの頃よくがまんして付き合ってくれていたと思い、スゲー感謝しています。逆の立場だったら、僕はきっと別れてるだろうね。
 でも、僕たちの場合は、ちょっと特殊な部類なのかな? 僕の病気のこと、パートナーは聞いてこないんだよね。だから、僕のCD4の数値も、今どんな薬を飲んでるかもたぶん知らないんじゃないかな。それは、気を使っているのか、無頓着なのか、聞く必要性がないからなのかホントのところは、定かではないんだけど。そりゃ、世間の一般常識として、テレビや雑誌や人からの情報としてAIDSのことが出てくれば、話をしたりもするけれど、僕の病気のことで話し合ったことってないな。まあ、聞いてくれたって、どうなるもんでもないんだけどね。

■第4章 避けられない話

- この原稿の依頼があって、一番書きたくなかったのが、このカミングアウトについての事でした。僕みたいな者がしゃしゃり出て偉そうに論じられる問題ではないと〜っても難しい題材だと思うんです。それに〃これだ!〃という答えが一つもないのです。だから一番始めに『パートナーは僕がPWAであることを知っている』と先に書いて、この事はこれで終わりにしようと思っていたのです。でもPWAがパートナーを見つける上で、またそれだけじゃなくても生活している中でも一番考えてしまうのはカミングアウトの事ではないかと思うので僕なりの勝手な解釈と自分に都合のいい意見とで書かせてもらおうかと思います。

◎世間の風潮に惑わされないように

- カミングアウトという言葉がけっこうひんぱんに使われ出したのはたぶん、ゲイが自分の事を家族や友人に『自分はゲイなんだよ』と打ち明けることをそう言うようになってからではないでしょうか?,BR>  一時期、カムアウトすることがとてもすばらしいことのようになっていて、事実いろいろなメディアでも取り上げられて、『カミングアウトしよう!』的な記事があちこちで見られました。そしてだんだんエスカレートして、ただ言い放つだけ、言った者勝ちみたいな感じがしてならなかったのです。こういう時、メディアというのは自分たちが発信した情報に対しての肯定性を上乗せするもので、「家族や友人も、今では理解してくれて本当にカミングアウトして良かったです!」なんていうのばかり目や耳にしたけど、たぶんそれに乗っかってカムアウトしてみたけど辛い思いをしたって人、けっこういるんじゃないかな? そしてそれが今、HIVのカミングアウトの問題にも引き継がれていると思います。
 はっきり言って、僕はこういう風潮、あまり好きではありません。

◎最善の方法なんて人によって違うよ!

- 僕の場合はカミングアウトするしない以前に、知っていることを前提にお互いに近づいたので話にもならないのですが…。もし自分だったらどうするだろうかと考えるてみたのですが、僕はたぶんしないんじゃないかと思います。どうしても言わなければならない時というのは強いて言えば、相手に感染させてしまう可能性がある時、例えばセックスのとき「コンドームを…」と言って相手が納得してくれなかった時くらいのものでしょうか。それだって、ほかの理由を付けて言わずに済むこともできるでしょう。
 一番簡単な方法は、普段から「コンドームを付けない人とは付き合わない」とか、「コンドームをつけてするセックスが好き」とか何げなく言い続けていれば、いいんじゃないかな。そうすればセーフセックスを心掛けない人とそうなったとき、「僕はコンドーム付ける主義だから」って割と簡単に言えて、「感染しているから…」なんて言わずに済むと思うよ。
 パートナー以外で考えると、僕は親には言ってないし、友人にも自分からは言ったことはありません。ただ、なんとなく気付いた友人に『もしかして、感染してるの?』って聞かれて、「そうだよ」と答えたことは何度かあります。ただこれは、ちょっと危険かなと感じるところもあります。今のところ目の届く範囲での不都合を感じたことはないんだけど、感染を知った人がどこかで誰かに喋ってしまうことだってあるかもしれないのです。カミングアウトするときは、そういうリスクも覚悟しておく必要があると思います。こんなことを言うのはちょっと哀しいことなんだけど、どんなに相手を信じていても一〇〇%信頼できるとは言いきれないんじゃないかな? 全く悪気がなくても口を滑らすってこともあるだろうし…。

◎パートナーへのカミングアウト

- カムアウトすることを考えるときって、どうしても悪い方にばかり考えてしまうものだと思います。時期についてだったら、『付き合う前に言えば断られるに決まっている』、『いい関係が続いているのに今さら言って関係がこわれるのが怖い』とか、相手に対してだって、『理解してくれそうにない』、『誰かに喋られたら困る』とかです。でも、みんな違う考えを持って生きている以上、どういう結果になるかなんてわからないのです。『話せば何でもわかってくれそうだったのに打ち明けた途端に冷たい態度をとられた』っていうケースもあると思うんだけど、逆に『まったく理解がなかったのに自分の大切な人が、また友人がそういう病気なら…と理解しようと努力してくれている』とか、そんなことなんでもないかのようにただ『ふ〜ん、そうなんだ』って聞いてくれた、ということだってあると思うよ。
 カミングアウトをするしないで、その人の価値が決まるものではないのです。したからって、ほめられるものでもすばらしいことでもないし、黙っているから、嘘をついてるというものでもないのです。人それぞれいろんな状況があって、した人はした人の、しない人はしない人の理由があるのです。
 カムアウトなんて、人生の中でたくさんある選択肢の中のひとつでしかないと考えてもいいのではないでしょうか。それは例えば、今日はちょっと高価な物を食べようとか、旅行に行きたかったから会社休んだなどと同じレベルでカムアウトしてみようとか、言いたくないから黙っているという様にです。
 とても重い問題としてとらえすぎて、あんまりそのことばかり悩んで暗くなってると、『暗い奴なんて嫌いだ』ってカムアウト以前に嫌われちゃうよ!

◎打ち明ける気持ち・打ち明けられる気持ち

- 勝手なことばかり書いてしまいましたが、カミングアウトするにしてもしないにしても、相手のことをまず第一に考えなくてはならないのではないでしょうか。どうしても感染者側(自分)のリスクばかり考えがちだけど、カムアウトに対して自分が悩んだように、打ち明けられた方、黙っていたことに気づかされた方にとってもとてもショッキングな事だと思うのです。何が起こっても受けとめられる気持ちと相手に対しての思いやりを十分に考えた上でするかしないか決めてください。一時の風潮のように、自己満足のためだけにカミングアウトするのは避けた方がいいと思うよ!

 これまで二人の事を書いてきましたけども、どうでしょう。本当に申し訳ないくらいこれと言って特別なことはなにもないと思いませんか? まあ、強いて挙げるなら、僕がPWAであるということぐらいでしょう。よくこんな原稿で権威あるLAPニュースレターに載せてもらえたなと思います。また、何かの機会に依頼があれば書いてみようかと思います。では、その時まで。

[大日向望]

-P.S.ここに書かせていただいたことはあまり編集もされずに載せていただけたので、不適切な表現があったかもしれません。特にカミングアウトについてはいろいろ問題もあることと思います。どうもすみません。これらはすべてLAPさんには責任はなく私、大日向の責任です。御批判がおありになる方は、LAP経由で大日向宛てにおねがいします。


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