「はばたき福祉事業団」という名前をご存じでしょうか? 本当はもっと有名になってもいいこの名前なのですが、まだ知る人ぞ知るというレベルにある気がします。パンフレットによれば「はばたき福祉事業団は、薬害エイズ被害者(感染者本人と遺族を含む)の救済事業を行うために、被害者が和解金の一部を拠出し、一九九七年四月に設立」されています。もとはといえば東京原告が中心になって作られた財団のようで、さまざまな事業が企画されています。
98年1月30日に発行された会報「はばたき」の創刊号
『HIV感染被害者の生存・生活・人生 当事者参加型リサーチから』(山崎喜比古・瀬戸信一郎編、有信堂、2000年、2,300円)※「総合基礎調査」の結果等がまとめられている
その一環らしいのですが「薬害HIV被害救済に関わる調査研究のあり方について」という報告書が手に入ったので紹介しましょう。これは一九九七年十二月にはばたき福祉事業団の調査研究準備委員会から発行された二十六頁にわたるものです。※この報告書に関するお問い合わせは、はばたき福祉事業団(東京都新宿区小川町9番20号 新小川町ビル5階 TEL03・5228・1200 ホームページ http://www.habataki.gr.jp/)まで
一九九六年の和解後、薬害HIV被害者の生活と健康を改善する恒久対策を実現していくためには、本来現状の把握や問題の解明が不可欠のはずなのですが、今までは厚生省などに施策に関して働きかけるという場合も、感覚的に方向性を決めていたところがあって根拠に欠けるところがありました。また薬害HIV被害者についての調査研究はあまりなされておらず、学会等での発表も数えるほどしかないのが実状です。そこでこの報告書では「どのような調査研究が全体的に必要なのか、どのような体制で、どのような手順で各調査研究を実施するのが有効なのかを検討」した結果が記載されています。
■8つのテーマを詳細に解説
興味深いのは、この調査研究準備委員会のメンバーに当事者である薬害HIV感染者本人、遺族、家族が全国から参加して加わっているということです。
基本方針についても「当事者が調査研究の計画からまとめに至るまで参加する方式のリサーチ」が望ましいとしており、とても新しく、またぜひとも必要と考えられる手法と思われます。
研究者側からは東京大学医学系研究科健康社会学教室の山崎喜比古氏を筆頭に、同教室の研究者数名、大阪市立大学生活科学部長寿社会科学研究室の小澤温氏、エイズ予防財団の井上洋士氏などが並んでいます。ワーキンググループや会議を重ねて作ったとの内容が書いてありますが、実際これだけの報告書を作るのにはかなり大変だったのではないかと想像されます。それぐらいしっかりしているのです。
■当事者も参加しての調査研究を提案
内容ですが、基本方針に引き続き「当面する調査研究の主なテーマ」として八つが並んでいます。薬害HIV感染者・家族・遺族のQOL、医療の質・制度・政策、差別・偏見、福祉・雇用・就労、セルフヘルプグループといったところが大まかな項目です。これらのテーマについて詳細に記した上で、「実施計画と初年度調査の提案」という章があり、初年度にも総合基礎調査が必要であることが力説されています。
薬害エイズの和解後の今、次に何をするべきかを具体的に考えていく必要があることは言うまでもありません。この報告書は将来に向けての方向づけをしてくれる契機になる気がします。またはばたき福祉事業団としてもこの調査研究活動を事業の中心的な活動として位置づけていくという話も聞いています。ぜひこの報告書に記載されている調査研究が計画通り実現され、将来的にもその結果が役立つことを願っています。
興味のある方や研究者の方ははばたき福祉事業団に連絡してみるのがいいかもしれません。