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保健所からのエッセー
エイズ教育の周辺〜ヘルスプロモーション考2〜

FAIDSスタッフ JINNTA 

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 ■5つの具体的な戦略

 さて、前回「ヘルスプロモーション」という何とも難しげな話を出してみました。今回はこのネタでちょっと続けてみます。
 ヘルスプロモーションではこれらを行動にうつすため、以下の5つを具体的な戦略と位置づけています。

1.健康的な公共政策づくり
2.健康を支援する環境づくり
3.地域活動の強化(住民参加の必要性)
4.個人の技術の開発(新しいアイデアと方法論の開発)
5.ヘルスサービスの方向転換

 つたない解説をしてみましょう。

 ■ヘルスサービスの方向転換

ライフ・エイズ・プロジェクト(LAP)NEWSLETTERイラスト 「5.ヘルスサービスの方向転換」というのは、書くのは簡単です。「病気にならないこと、病気を克服すること…という目的に向かって個人個人が必死にはいずりあがる。専門家はそれを時には説教し時には鼓舞し、がむしゃらにアメとムチで引きずりあげようとする。その落伍者は福祉で救済してやろう」という従来の活動はもうやめてしまいましょう。同じ努力をするんなら、そういう「根性物語」ではなく、もっとメルヘンチックに? よりよい暮らしを目指して、健康ということを手段として「みんなで手を取り合って一緒に歩きましょう」と言うことを実現するための転換です。
 ………とはいえ、これが実際に簡単ではないというのはすぐわかります。手を取り合って一緒に歩くどころか、いっしょに話をすること自体が、けっこうむずかしいんですよ。どうやって殻を破るか、考えていかなければならない。

 ■個人の技術の開発

 「4.個人の技術の開発(新しいアイデアと方法論の開発)」。個人へのアプローチは具体的な技術を与えることです。そのための具体的な技術の開発(援助の仕方も含め)が必要です。以下、エイズ教育についての問題点をアトランダムに書いてみましょう…

・ただやかましく「ああせいこうせい」と言って効果が現れるような生 やさしいものではない(このことがわかっていない人が多い)。
・挙げ句の果てに、せっかく教えてやったのに「できなかったのはお前 のせいだ」などというのは本末転倒ということになる。
・一時流行した「コンドームを配れば予防ができる」ような甘いもので はない。
・つまり行動ができるようにする方法を開発しなければならないわけで ある。
・だれでもが予防行動をできるようにするにはどうしたらよいのか。
・「コンドームを使えるようにする個人技術の開発」とは何なのだろう か?

ライフ・エイズ・プロジェクト(LAP)NEWSLETTERイラスト ちょっと思い出してください。平成4年のエイズ啓発の盛り上がりの時代を。多くの役所がやったのは「ああせいこうせい」でした。で、結局今、エイズ予防「冬の時代」を迎えているわけです。でも、一部のお役所や、多くのNGO団体は、「ああせいこうせい」ではなくて、どうしたらいいのかを真剣に模索し、実行していました。私たちは、この先例を参考にしなければなりません。
 ちょっとエリアは違いますが、「生活習慣病」でいえば、たとえば、「塩を取りすぎれば高血圧になる。だから塩を制限しなさい」と言うだけでは高血圧の予防には役にたたんということです。「どうやったら塩を制限できるのか」ちゃんと「実行できるような」方法を開発し、そしてその気になるような上手な教え方も開発しなさいと言うことですね。

 ■地域活動の強化

 「3.地域活動の強化(住民参加の必要性)」というのは何を隠そうLAPのことです……要は、地域の組織をお役所のご都合の良い手足としてこき使うんではなくて、必ずしも専門家ではないみんなの個人個人の力を組織化して、主体的な活動の担い手になってもらうようにする。行政や専門家はそのサポートをするべきだということですね。これには、みんなが大きな目的を描いて、それに向かって進んでゆく必要があります。

 ■公共政策と環境

 「1.健康的な公共政策づくり」「2.健康を支援する環境づくり」は一連のものです。
 健康を支援する環境づくり とは何か。エイズの予防だと言ってコンドームと騒いでも、夜買える店がないんでは使うどころか手にも入らない。コンドームを使うなんてヤツは遊び人だとかいわれたら使いたくても使ってといえない。そういうのは予防にとっては障害になってしまうわけで、個人の努力の限界を超えています。コンドームと言い出せない社会、性のことを語るのが憚られ、場合によっては敵視される社会(特に、セクシャルマイノリティ)、これは確実にエイズを蔓延させるわけですが(アメリカの過去のエイズを思い出してください)、そういう社会は健康を支援しない環境だし、コンドームと言い出せる社会、性のことが語れる社会、セクシャルマイノリティが受け入れられる社会といったものをつくるには、たとえば保健だとか医療だとかの枠を越えた、もっと大きなコンセンサスを作るような公共政策(たとえば、保健の領域ををこえた学校教育とか)が必要なのではないでしょうか。
 この話は、子育てではよく取り上げられています。子育ての問題などは、どんなに保健や医療の人間ががんばっても変えられないことがたくさんあることがわかっています。エイズでも、PWAの生活の質を向上させるには、保健や医療の領域だけでがんばっても限界があります。身近な生活環境がPWAの健康状態に直結しています。労働とか経済を巻き込んだ、社会全体のシステムを変えてゆかなければ。それを支持する公共政策が望まれますね。

JINNTA[FAIDSスタッフ]
ホームページ http://homepage3.nifty.com/hksk/jinnta/


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