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第16回日本エイズ学会報告(2)
患者さん、そして医療者へ。3つの視点から情報発信!

HCMI-J 堀 成美 

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 HIV診療に役立つ情報発信を医療者に向けて行う専門NPOであるHIV Care Management Initiative-Japan(HCMI-J)が作成している資料の紹介です。
 以下の冊子の作成に関わったものとして、その思いや狙いを書かせていただきます。

※各資料のPDF版はHCMI-Jのホームページに掲載されています。

 ■My Choice & My Life

ライフ・エイズ・プロジェクト(LAP)NEWSLETTERイラスト この冊子のめざしたところは「患者さんが実際に治療について理解して服薬のことを考えるときに、どの程度の話がつたわっておくとよいか」を具体的に示すことでした。
 患者さん個人の関心やそのときの体調や心のモードによっても情報の伝わり方はちがいますし、また医療者の側では、患者さん一人一人に対して「この人は理解するかも」「この人は言っても分からないかも」というようなバイアスをもちがちです。
 そのときの状況によって情報の量や質が左右されてしまわないために一定のレベルの情報を提示する「書かれたもの」が必要と思いました。
 病気の説明は医師が口でいうだけ、あるいは裏紙にサササっとメモするだけでは正確にはつたわりません。そこで兵庫医大の日笠先生が患者さん向けに作成していた図やグラフを提供していただいています。
 今回の改訂では、治療ガイドラインが変化して、いっときよりも治療開始がおそくなっている傾向をふまえて、治療を開始していないときにでも大切なことを情報としてもりこみました。
 内容は医療者で検討し、きれいなカラー印刷での作成と配布にかかる費用や作業については製薬会社からご協力を頂いています。

 ■Voices〜治療を経験している患者さんの声をあつめてみました〜

ライフ・エイズ・プロジェクト(LAP)NEWSLETTERイラスト 病気や治療の話はどんなにかみくだいても、何回聞いても難しいですよね。専門用語は難しいし、意味のわからないカタカナもたくさん。その割には「じゃあ、自分の生活や体調、この先のことはどうなるんだろう」という実感がわきません。
 患者会などで自分よりいろいろな体験をしている人から話を聞けることもあるかもしれませんが、多くの人は忙しかったり、プライバシーが気になったり、あるいは医師以外に病気の話をする人がいなかったりします。
 「他の人はどうしているのかなあ」とつぶやく患者さんの声をヒントに作った冊子です。作成にはたくさんの方のご協力を得ていますが、「自分の体験が他の人に役立つのはうれしい。情報がないってほんとうに苦しいですから」とおっしゃる方もいましたし、もっと冷静に「でも、他人の経験は自分とはイコールではないですよね」と考えた方もいらっしゃいました。
 病院で医師やナース、薬剤師と話をするときの話題になればいいなと思っています。
 また、この冊子をこれからHIV診療に関わる医師や薬剤師が読むことで、「患者さんは自分に話をしているだけでなくもっといろいろなことを気にしたり不安に思っているのだ」とういセンサーを持って欲しいなと思っています。
 製薬会社がこのような企画にGOサインを出し、印刷と配布の協力が得られたことに感謝しています。
 以上2冊は患者さんに向けてつくったものですが、実際にはHIV抗体検査に関わる医師や保健師、拠点病院でケアやサービスを提供するスタッフ、医学生や看護学生が「患者さんがどのような情報を必要としているか」について理解するためにも生かされています。

 ■HIV感染症におけるチーム医療〜事例で学ぶ失敗しないためのヒント〜

ライフ・エイズ・プロジェクト(LAP)NEWSLETTERイラスト この冊子は患者さん向けではなく関わる医療者の教育目的で作られたものです。
 この冊子はHCMI-Jの活動に関わってもらっている都立駒込病院の今村医師が作成しました。検討の段階で協力させていただいたもので、HCMI-Jの資料というわけではありません。しかし、前述の2冊と同じような研修などで配布されています。
 「チーム医療が大事」とはこの病気の話の中に良く出てきます。しかし、果たしてそうでしょうか? 複数のスタッフが関わることが目標なのではありません。
 チーム医療は結果的にそうだった…というところにあります。患者さんによっては医師と良好な関係を持てればそれでOKという方もたくさんいます。
 ご自分で問題を処理したり考え結論を出せる方に「援助」という名のもとに過剰な介入をしていくことではありません。
 チーム医療の話は時に、関わる側の「ケアをした」という自己満足や存在理由つくりをしたいという欲の話になることがあります。
 じゃあ、どういうことを診療に関わるスタッフは考えていけばよいのかということを診療の場でよく患者さんが困ったり質問してくる具体的な内容をもとに解説しているのがこの冊子です。
 実際に常に患者さんの声に耳を傾け、またスタッフとのまめな連携を行う今村医師ならではの仕上がりになっています。
 この冊子の企画と印刷・配布に協力をしてくれた製薬会社のスタッフの方も薬剤師・ナース・MSWの認知が進むことについて真剣に取り組んでもらっています。

[HCMI-J 堀成美]


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