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誇張される血液感染

草田央 

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 HIV(エイズウィルス)の感染経路は1.血液、2.性行為、3.母子感染、の3つであると繰り返し主張されてきた。しかし、この表現が多分に誤解を招いてきたことも否定できない。特に血液経路の感染を過大視する風潮の高まりには、疑念を禁じ得ない。
 例えば、理容店におけるカミソリの共用を心配する人は多い。NHKの電話相談には、血液が付着したブラシの共用を心配するものまであった。スポーツやケンカでの感染も危惧され続けている。この新学期から長野県松本市の小学校で導入された「エイズ教育」では、性行為にふれることを避けるがゆえ「けがをした場合は傷口をよく洗浄すること」と教えるという、いずれも感染する可能性のない誤った認識である。
 血液を媒介に感染が成立するには、HIV感染者との濃厚な血液の交換、もしくは汚染血液の体内注入が必要である。具体的には1.抗体検査のされていない輸血、2.麻薬の回し打ち、3.医療従事者の事故、の3つに限定される。血液との日常的な接触では感染しないのである。
 HIVの混入した血液を輸注した場合、その感染確立は90%だとされている(100%ではないことに注意)。そして日本での最大の感染要因は、安全性をないがしろにされた血液製剤であることも紛れもない事実である。が、1986年以降はHIV抗体検査が行なわれており、少なくとも日本では輸血による新たな感染者は報告されていない。
 麻薬のまわし打ちが危険だとされるのは、静脈注射を行なう際に血液を逆流させ、まさに血の混合・交換を行うからだと言われている。この行為により、麻薬中毒者はお互いの結果を確認し共同意識を持ち得るのだと言う。注射針は交換したが、血液を混入させた注射筒を交換しなかったため感染したといった悲劇まで出てきている。
 医療従事者が事故によって感染する確立は0.5%以下で、感染者の中で占める割合は0.01%以下と極めて少ない。感染が成立してしまった個々の事例をみてみると、直径1.6?の針の付いた注射器を筋肉の内部に至るほど刺してしまったケース、数千倍に濃縮したウィルスを扱っていた研究者が感染してしまったケース、血液の入ったガラス瓶が割れケガを負ってしまったケースといったものがある。HIVはB型肝炎ウィルスの10万分の1の感染力しか持たないため、B型肝炎対策が行なわれれば医療事故による感染事故は今後さらに少なくなるだろう。現にB型肝炎対策の充実した日本では、いまだ医療従事者の感染事故は起きていない。数多くの針刺し事故は報告されているが、そのほとんどは感染に至らないものである。

 母子感染は、出生時にHIV感染者の母親から感染するものを言う。すでにこの世に生を受けている我々や子供たちの感染経路ではないことは自明である。
 血液による感染が、前述のように特殊なケースに限られる以上、残る感染経路は「性行為」のみなのである。HIVが性行為感染症であるゆえんだ。にもかかわらず、血液経路の感染を理由に感染者の排除が公然と叫ばれてる。その一方で、コンドームの消費量がまったく増えない現実がある。自らの危険行為を改めることなく、意味のない感染者の排除で安全を勝ち得ようとするチクハグさを感ぜずにはいられない。


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