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HIV陽性者たちのセックス・ライフ


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自分がHIVに感染していると知った時、多くの人は「もう、セックスできないんじゃないか」と考える。まわりの人もそれが当たり前だと思い、HIV陽性者のセックスなんて考えてもみなかった、なんて人も結構いるかも知れない。

だけど、セックスって人生の中の重要な位置を占めているものの一つ。HIVに感染している(ことを知っている)という理由だけでやっちゃいけないなんてなんだかヘン。それぞれの人がその人なりのセックスライフを送れるようになるにはどうしたらいいんだろう…。

そんな思いを抱きながら考えたこの企画。あなたももう一度、HIV陽性者のセックスライフについて思いをめぐらせてみて下さい。


■ケース[1] 一郎さんの場合

相手を守るという意味と自分自身の重複感染を防ぐという意味でもセーフセックスは重要なこと。私はセーフセックスを楽しんでいます。

最初はあきらめかけていた

 私が自分の感染の事実を知ったとき、やはりセックスはもうできないとあきらめかけました。といっても、本当はセックスのことを考える余裕が出てきたのはしばらく経ってからのことですが、今回はセックスについてということなので細かいことは省いて、話を進めます。
 幸いにも私が感染していることを最初に伝えた古くからの友人であるAさんはHIV感染症に理解のある人でした。詳しい話は省きますが(すみません。またの機会にでも)、今の私がセックスを楽しめているのはこのAさんの「後押し」が一つのきっかけなのです。セックスについて消極的な私に、Aさんはいろいろな話をしてくれました。驚いたのは「世の中には『感染していない人』なんてほんのちょっとしかいない」という彼の持論でした。確かに、考えてみれば100%、絶対にHIVに感染していないと言い切れる人は少ないでしょう。そして、「僕は『感染を知らない人』とコンドームを使わないでやるなら、『感染を知ってる人』とコンドームを使ってやるほうがいいな」と話を続けました。そんな考え方もあるんだ、と私はちょっと驚きました。

必要なのは「セーフセックスをマスターすること」

 でも、私がセックスを楽しむには後ろめたい気持ちがあります。そのことをAさんに言ってみました。「でも、自分がHIVに感染してることは相手にいいづらいし、かといってこのことを言わないでやっちゃうのもちょっとまずいんじゃないかな」と。するとAさんは「だって、相手だって自分が感染してるかどうかなんて言わないんだし、そもそも知らない、わからないって人が大部分でしょ。そんなことより、一郎さんに必要なのはセーフセックスをマスターすることだよ」と得意の? 笑顔で微笑みながら言いました。
 そんなこんなのやりとりがあって(試行錯誤もありましたが)、今の私はセーフセックスを楽しんでいます。恋人には自分の「重要なこと」を隠しておきたくなかったのでHIVに感染していることを伝えました。最初はとまどっていた恋人も今では「うつってもいい」なんてことを言い出しています。でも、それはちょっと困るのでセーフセックスをしています。もちろん、恋人以外の人とセックスをするときもコンドームは使っています。

「身を守るのはゴムしかない」

 セーフセックスと言っても、人によっていろいろと捉え方が違うと思いますので、私のセーフセックスについてちょっと書かせていただきます。一言でいえば「身を守るのはゴムしかない」ということです(相手を守るという意味と自分の重複感染を防ぐという意味でも)。インサートの際にコンドームを付ければHIV感染の予防は、ほぼ100%に近い数字に持っていけます。ですから、私はコンドームを嫌がる人とはセックスをしません。また、オーラルセックスをする前は歯磨きをしないで、うがいですませるようにしています。歯磨きをすると口の中で出血したりすることがあるからです。精液は相手の身体の上に出すことはたまにありますが、口の中に出すことはしていません(これは好みの問題もあるのですが)。
 コンドームを付けると白けてしまうとか、間がもたない、と言う人がいますが、セックスの流れの中でたったワンクッションを入れるだけなのですから工夫次第でスムーズにいくと思います。岩室先生の話ではありませんがコンドームを手にとって、見ないで裏表を見分けるなんてことは簡単です(ゴムの巻き具合が違いますから)。

「君は明るいね」と言われるけど…

 私はあまり悩んでいません。少なくとも今の時点では身体的な症状もなく、仕事も続けていますし、HIVに感染したからといって困っていることはないからです(AZTは副作用があって困りましたが、ddIに変えてからは順調です)。
 でも、こんなことを言うと驚かれます。先日もケースワーカーの人に「君は明るいね。地面に顔をつけている他のPWA(HIV感染者・エイズ患者)を引き上げてやって欲しい」なんて言われました。でも、私の方が引き上げて欲しいです。若い、かわいい子に。

[一郎]


■ケース[2] 駒込金太郎さんの場合

エイズの性の問題って、加害者とか被害者という関係が付きまとって、より複雑で深刻な問題になっちゃう。友達からはSEXも恋愛もする権利はないと言われてしまった。

こんなテーマで原稿を書くなんて

 LAPニュースレター読者の皆さん、はじめまして。駒込金太郎です。今回、初登場ですので、とりあえずよろしく。
 LAP代表の清水氏から、PWAのSEX、感染後のSEXについて、というテーマで何か思うことがあったり、今どうしているか等など、投稿して欲しいって依頼があって、こうしてしぶしぶ書いているところデス。
 なぜしぶしぶかと言いますと、皆様も知ってのとーり、ぼくのようにSEXで感染してしまったゲイのPWA、しかもパートナーがいないPWAなんて、安易にSEXなんてできないし、事実、感染がわかってから3年間、ただ一回をのぞいて誰ともしていないから、こんなテーマで書いてくれと頼まれても、けっこう無理があるんデスネー、これが。
 一回というのは、僕の通っている病院で知り合った同じPWAの人で、何回か会って食事なんかしたりしてるうちに、まー仲よくなったというか、そのうちなんとなく『しちゃった』なんて感じで、そんな貴重な体験もただの一回きりですから、とりとめて皆様にご披露出来る代物でもなく、原稿書くにあたってはけっこう、悩んでいるわけデス。

そう簡単にはいかない現実ってやつが…

 とりあえず僕なんかは、けっこうモンモンとした日々が多いのは事実で、たまに大声で叫びたくなったりはしますね。でも、そこはそれ皆さん、とっても難しい問題をはらんでおりますもんで、そーそー簡単にはいかないのが現実でして。
 でもやっぱ本音なんか言っちゃうと、僕の中にもしっかり悪魔なんかが住みついたりしているわけで、もーほんとーにしたくなったりすると、ささやくんですよ、あいつ。
「大丈夫だよ、コンドームつけて気ぃつければ。やっちゃえ、やっちゃえ」ってね。そりゃあ皆さん、僕も生きているわけだし、けっこう元気なもんだから、しっかり性欲なんかもこの期におよんでもあったりして、そんなときはけっこうつらい葛藤があるんですョ、心の中で。

Hビデオは強い味方

 ただ、男ってけっこう便利というか単純というか、Hビデオなんかで抜いてしまえば、後はすっきりなんですよ、これが。「アー、悪いことしなくてよかったー」なんてほっとしたりするんです。そのかわり、あきっぽいもんだから、次々と新しいの買ってしまって、ビデオ代もけっこーかかるんですョ。しかも、見飽きたやつは、友達にあげたりしてるから感謝されたりはするんですけど、誰も買ってくんないもんだから、洋服代とか飲み代とか削っている訳です。
 そりゃー、皆様に言わせれば、そんなもん何度見たって同じだ! などと思われるでしょうが、男心というか、スケベ心とでもいいましょうか、複雑なんですよ、とにかく。
 ま、そんなわけでHビデオはシングルPWAの強い見方だ! というのが僕の意見でして、あんまりおちゃらけたりすると、皆様のひんしゅくをかったりもしますので、もう少し文章を続けるといたします。
 とりあえず今は、自己規制というか自粛というか、そんな毎日を送っております。まぁ、自分の一時の欲望のために人を巻き込むなんて、やっぱしひきょーな気もするし、自分もこのためにこんなに苦しんできたのに、いくら安全なSEXの方法があるっていっても、うそついてまでSEXなんてできない(キャー、男っぽーい!)。

付きまとう「被害者」「加害者」の関係

 どうしても、このエイズの問題って、加害者とか被害者という関係が付きまとって、より複雑で深刻な問題になってしまうんだけど、僕の感染がわかって打ち明けた友達からは、もう僕なんかは加害者の立場にされてしまって、僕も誰かに染つされてしまったなんていう考えなんて全くなくって、SEXも、ましてや恋愛なんかする権利はないとまで言われてしまったんです。世間のPWAに対する見方なんてそんなものかって、思い知らされたような気分でしたよ。
 僕なんかは、染つした人なんて責めたり、恨んだりしていないし、やっぱ心のどこかに『自業自得』って気持ちがあるのは本当。同時に、沢山の人とSEXしたわけでもないのに、どうしてこの僕が…って思っているのも本当なんです。
 感染の事実を知らないで、いまだに多くの人と無防備なSEXをしている感染者が沢山いるのは現実だし、これからの人たちはやっぱし、自分の身は自分で守るって知って欲しい。
 そして、被害者がいなければ加害者も存在しない訳だし、AIDS患者、感染者に対する差別や偏見もなくなっていくよーな気がする。ちなみに、僕にはSEXする権利がないと言い切った友達は、B型肝炎に感染して入院していると電話してきました。いまでもあの時と同じ考えでいるのかなぁ? だとすると、彼も今は加害者の立場にいるのでしょうか?

やらなきゃやらないで済んだりもして…

 僕のPWAの友達は、彼や彼女がいる人がけっこう多くて(うー、うらやま…)いまでもSEXしているそうです。
 今はどう気を付けたら感染しないか、はっきりわかっているから信頼と自信のあるもの同志のSEXには、リスクがないんですね。
 そして、何よりも愛! そう、愛だろ愛(いい響きだ!)。でも、つらつら思うに、SEXってけっこー重要な位置しめてて、それでいてしなきゃしないで済んだりもして、こんな事で悩まなきゃなんないなんて、人間なんて哀しい生き物かもしんない。
 清水さーん、やっぱ難しいョこのテーマ、一生かかっても答えなんかでない!

精一杯明るく生きていくこと

 とりあえずPWAとなった今、そんな恋愛だのSEXだのからは、ずーっと遠のいてしまったけど、しかたないと思っている。
 人それぞれ与えられた条件の中で生きていくしかしょーがないしグチ言っても何も解決しないから…。
 ま、生きてる間、出来るかぎり一生懸命仕事して、人に迷惑掛けないようにしながら、精一杯明るく生きていくこと。
 そ、がんばってまた明日も、生きていくか! それっきゃない!!

[駒込金太郎]


■ケース[3] 白金大輔さんの場合

セックスが出来なくなるというのは全くの誤解だった。パートナーと二人で決めたセックスのガイドラインを守っているから3年目の現在も彼はネガティブのままだ。

「愛人28号までがんばるわ」

「あらアタシって性別が不自由なの」
 何かの拍子に女装好きのTが「男ができない」と電話で泣きを入れてきたとき、こんな言葉を吐いたので、僕は思わず切り返した。

「まあ、アタシだってセックスが不自由なのよ。HIV抱え込んでるし」

 Tにはもう3年以上前、僕が感染していることを告げた。一時期、その事を必要以上に背負い込んでしまい、落ち込んでいたのだが僕に新しい彼が出来て以来、こんな軽い会話を交わせるようになった。
「ンま! 冗談お言いじゃないわよ。アタシよりずーっと豊かな性生活をエンジョイしてるくせに! また新しい男作ったってうわさじゃない? 愛人何人こしらえたら気が済むのかしら?」<
BR> 「そうね、愛人28号まで頑張るわ」  やがて話題は他に移り、いつものようにとりとめのない話が続いた。
 Tに僕の感染を打ち明けたときTが落ち込んだ理由を軽口混じりにこう言った。
「アンタからセックスを奪ったら何も残らないじゃないの」
 HIV/AIDSに関しては早い時期から情報を集めていたTにも、感染したらセックスが出来なくなると思っていたらしい。
 一時期に比べ、HIV/AIDSに関する理解も進んできた。でも、多くの人がTと同様に考えているのが実状かもしれない。
 僕自身も最初はそうだった。
 しかし、セックスが出来なくなると言うことは全くの誤解だった。HIVに感染した自分を好きになるような相手は世界中探してもいるはずがないと一人で勝手に決めていただけだった。

「ねえ、キスしていい? 僕、HIV持ってるんだけど」

 今から2年半ほど前、あるバーの隅っこでにこにこしながら僕とマスターの話を聞いていたコがいた。その夜は客も少なく、話題がコンドームのことになったとき彼はバッグから数種類のコンドームを取り出した。話を聞くと何時も持ち歩いてるという。
 初めて会ってから2ヶ月ほど経った夜、車で来ていた彼が僕を家まで送ってくれることになった。そこで僕は「送られ狼」になることにした。
 そこで僕は自分がHIVを持っていることをその前に話しておきたいと思った。話題が何度かHIV/AIDSに及んだとき、彼がナチュラルな反応を示したので、万が一断られても自分にかかるリスクはほとんどないだろうと確信していた。
 できる限り軽い口調で僕は言った。
「ねえ、キスしていい? 僕HIV持ってるんだけど?」
「オーラルまでは良いけど、それ以上はコンドーム使ってね」
 彼も同じように軽く返してきた。
 その夜、僕は実に13ヶ月ぶりに男の肌に触れた。しかし、その時は何が安全で何が危険かよく分からないまま、軽いキス止まりで後はお互いの手で愛し合った。

二人の『セックスのガイドライン』

 数日後、僕は病院に行って先生にセックスについて聞いた。しかし、はっきりした答えが返ってこない。多分それは僕が「安全か危険か」という聞き方をしたせいかもしれなかった。
 だって、どんなセックスでも100%安全なセックスは無いわけで、僅かでもリスクの有ることを医療者の立場で「安全」などと言えるわけがない。僕も、粘膜の接触を避けることがセーフセックスの条件であることくらいは知っていた。そこで、僕は、感染のしくみを「ウィルスの濃度」「感染例の有無」等、出来るだけ具体的な事柄に置き換えて説明してもらった。 
 その結果を彼に話し、極めて常識的な二人のセックスのガイドラインを決めた。
 それは次のようなものだった。
 こう書くと面倒なように感じるかも知れないが、要はコンドーム着用の厳守。それ以外はなんのことはない。
 ちなみに彼は誰とセックスをする場合にもこの原則を守っているという(僕たちの関係は浮気は自由。ただしお互いにバレないようにというオープンな関係なのだ)。当然、3年目の現在も彼はネガティブのままだ。
 最近では二人のセックスもややマンネリ気味で、元来SMが好きな僕はたまにロープを持ち出したりしてみる。でも、彼はそっちの趣味は無いらしい。
「SMの相手は他で探してねぇ」
などと曰う。そこで、僕もお言葉に甘えてプレーの相手は他で調達している。
 実はSMは手首から先だけの接触で済ませることも可能で、やりようによっては究極のセーフセックスとも言える。だが、話が長くなるので具体的な話は別の機会に譲る。
 それでも、相手がどうしてもアナルを求めてくればコンドーム着用で臨むしかない。それに、僕の性格かもしれないが、相手に僅かでもリスクを負わせる以上、僕がHIVを持ってることを話してから事に臨みたいと考えている。

世の中捨てたもんじゃない

 僕のパートナーみたいに物わかりのいい男がそんなにいるはずがない、と僕の友人達はみな言っていた。ところが世の中捨てたモンじゃなかった。
 会ったその日のウチにすべてを話してセックスと言うわけにはいかないけれど、相手の人柄を見極めて、その人のHIV/AIDSに関する知識を確かめながら事を運べば、成功の確率はそれほど低くない。
 そのためには、すぐ会わなくても済むコンタクトの方法が便利で、伝言ダイヤルやパソコン通信が成功の確率が高い。電話で何度か話すうちに相手が受け入れる可能性があるかどうかを判断できるというわけ。
 先日会ったコが言った。
「何が安全で何が危険か分かってる人ならポジティブでも、やたら生でやりたがる奴より安心できるよ。そんな奴に限って検査も受けてないに決まってる」
 そう言ってくれた彼も、一度検査を受けなければと思いながらも機会を逃していたと言う。僕と会った翌週、彼は検査に行ったと報告をくれた。結果は陰性。

「やっぱり人間、諦めちゃだめよね」

 現在、彼のような相手が3人いる。でも、そこにたどり着くまでに逃げられたり、話すことがためらわれたケースもその5倍くらいはあった。正直な話、不愉快な思いも無くはなかった。だから、くれぐれも慎重に相手は選ばなければいけない。それでも、僕が会った多くの人が一応の理解は示してくれたように思う。先日、久しぶりに家にやってきたTがしみじみと言った。
「やっぱり人間、諦めちゃだめよね。アンタのセックスに見せる執着心は見習わなくっちゃね。女装好きのアタシに惚れる男なんかいないなんて思ってたけど、また頑張るわ」

[白金大輔]


■LAPでは皆さんのご意見や体験談を募集しています。

 一郎さん、駒込金太郎さん、白金大輔さん、それぞれ三者三様(次ページの大日向望さんを入れると四者四様)の手記を読まれて皆さんは何を感じられましたか? ぜひ、ご意見をお寄せください。
 また、自分も手記を書いてみたいというPWAの方、どうぞ原稿をLAPまで送ってください。
 LAPでは『HIV・エイズと共に生きる社会』を創り出していくために避けることのできないテーマである「HIV陽性者のセックスライフ」について今後も継続して取り上げていきたいと考えています。


■次号予告 岩室紳也医師の「セーフェストセックス講座」

 次号のLAPニュースレターでは11月19日に行なわれた講演会『若者への性教育とその問題点、医師としてのエイズ問題』の中から特にセーフェストセックスについてご報告する予定です。

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