LAP NEWSLETTER

エイズ以外の性感染症について[5]

日本感染症学会会員 福田光 

RETURN TOニュースレター第12号メニューに戻る

■12 ウイルス肝炎(中編)

(3)B型肝炎

[ア 臨床的特徴]
 B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus:HBV)の感染には一過性感染と持続感染の2種類がある。
 成人がHBVに感染した場合、侵入したHBVの量に比べて宿主の免疫応答が十分であれば、感染肝細胞は破壊され、肝炎の症状(体がだるい、食欲がないなど)が現われた後、数か月でHBVは体内から完全に排除されて治癒し、感染は一過性に終わる。これがB型急性肝炎であり、宿主は終生免疫を獲得することになる。
 B型急性肝炎は年間10万人程度で、急性肝炎全体の1/3を占め、主に成人が感染した場合である。好発季節は特にない。
 一方、免疫機能が未熟な小児、あるいは免疫機能不全の成人がHBVに感染した場合には、肝炎の症状を示さず、HBVは排除されずに長期(6か月以上)にわたって肝細胞内で増殖を続けることがある。これがHBVの持続感染であり、このような状態にある感染者をHBVキャリアという。大部分のキャリアは自覚症状も肝機能異常もなく、無症候性キャリア(ASC)と呼ばれるが、約10%のキャリアは慢性肝炎に移行し、そのうちのさらに20%程度が肝硬変となる。
 B型慢性肝炎は年間40万人程度で、慢性肝炎全体の1/3を占め、そのほとんどがキャリアからの発症である。
 一過性の感染で終わるか、感染が持続してキャリアとなるかは、体内に侵入したHBVの量と、宿主の免疫反応の強さによって決まる。キャリアのほとんどは、小児期それも4才以下の乳幼児期に感染したものである。一般に年長児ほどキャリアになるためには、大量のHBVが体内に侵入する必要がある。

[イ 症状]
 B型急性肝炎は、感染から2か月ないし3か月の潜伏期を経て、黄疸、全身倦怠感、食思不振、悪心嘔吐などを初発症状として発症する。ときとして腹痛、関節痛、蕁麻疹なども認める。大多数は全身倦怠感、食思不振などで始まり、尿濃染、黄疸と続くが、一般に発熱を伴うことは少ない。免疫不全状態での感染を例外として、慢性肝炎へ移行することは原則としてなく、ほとんどの症例では遅くても3か月以内に肝機能が正常化して、治癒するが、まれに重症化して劇症肝炎となり、死亡することがある。
 B型慢性肝炎の大半は無自覚のままに進行し、偶然の検診時あるいは慢性肝炎の急性発症時に発見される。急性肝炎よりも症状は軽く、直接死に至ることはないが、長い年月を経て、肝硬変、さらには肝がんに進行すれば、死亡することもある。また、肝硬変あるいは肝がんによる腹水、消化管出血等の症状が出現してから発見される例も少なくない。
 キャリアから慢性肝炎、肝硬変を経て、肝細胞がんへと進展するのは、全HBVキャリアの1%に満たないものと考えられている。なお、肝硬変のうちHBVによるものは25%弱、肝がんのうちHBVによるものは30%弱であり、その他の大部分はC型肝炎(HCV)によるものと考えられている。

[ウ 病原体]
 HBVはヘパドナウイルス属の一種で、直径42nmの球状粒子であり、デーン(Dane)粒子とも呼ばれる。直径27nmのコア(core)粒子と、これを被う外穀(エンベロープ)の二重構造と成っている。エンベロープはリポ蛋白で、B型肝炎表面抗原(HBs抗原、オーストラリア抗原ともいう)を有する。
 HBs抗原は、デーン粒子(HBV)とは別個に、血中に直径22nmの小型球形粒子あるいは管状粒子として、それぞれHBVの500倍〜1,000倍、50倍〜100倍の濃度で血中に存在している。HBs抗原には主として4つのサブタイプ(adr、adw、ayw、ayr型)があり、その型は各地城に特徴ある分布を示している。感染源や感染経路が複数考えられる場合、HBVのサブタイプを検査することにより、感染経路の推定することができる。
 コア粒子は肝細胞の核内で産生され、表面にB型肝炎コア抗原(HBc抗原)を有する。肝細胞の細胞質中でエンベロープに覆われることによって、デーン粒子(HBV)がつくられる。コア粒子は血中には存在しないが、コア粒子内の蛋白であるHBe抗原は血中に出現することがある。血中のHBe抗原の量は、産生されるデーン粒子の量を反映している。また、コア粒子の内部には2本鎖環状のHBV-DNA、DNAポリメラーゼが存在している。
 HBVはエーテル、クロロホルム、酸などによって感染性を失い、また100℃、10分あるいは50〜80℃、1時間の加熱処理によっても不活化され、塩素剤やホルマリンなどによる消毒も有効である。
 HBVはヒト以外にはチンパンジーにしか感染せず、培養細胞内で増殖させるためには特殊な条件が必要である。ヒトのHBVによく似たDNA型ウイルスがウッドチャックやリス、あるいはアヒルなどで発見されている。

[エ HBV関連抗原・抗体]
 B型急性肝炎では、潜伏期の終わりころから血中にHBV(デーン粒子)、HBs抗原、HBe抗原などが出現し、続いて肝機能障害が生じる。その後、血清GPT値が極値に達するやや前までに、HBVおよびHBe抗原は血中から検出されなくなり、代わってHBe抗体が現れる。このHBe抗原からHBe抗体への交代をセロコンバージョン(sero-conversion)という。さらに発病後1〜3か月の間には血中からHBs抗原も消失し、代わってHBs抗体が現われて回復期となり、治癒する。

■次号予告

■参考文献


RETURN TOニュースレター第12号メニューに戻る