そろそろ春の足音が聞こえてくるころですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。あいかわらず、のんびりマイペースのT-GAP(トランス・ジェンダー・エイズ・プロジェクト)もそろそろ冬眠から覚めるころです。今回は海外報告第2回。前回のアメリカはシアトルに続き、イギリスで見聞きしたことをお知らせしたいと思います。
■海外視察報告[2]
今回ご報告するイギリスと前回のアメリカ。ヨーロッパとアメリカという違いはあっても「欧米」なんて言葉があるくらいですから、何だか両者は同じか、似たもの同士のよう。ところが私の見た範囲、知る範囲、そしてTG(トランス・ジェンダー)をめぐる状況ということでは、この両者、ずい分と大きな違いを見せてくれたのでした。
◎イギリスのナイトクラブは大騒ぎ
まずロンドンで訪れたのは、TGたち(イギリスではTS[トランス・セクシャル]からTV[トランス・ベスタイト]までを含めてトラニー:trannyと言います)が集まるナイトクラブ。時には一晩で数百人が集まってくることもあるというから、さすがはイギリス、ナイトクラブ・カルチャーが盛んです。
大都市になれば世界中たいていどこでもTGたち自身が楽しむスペースがあるものですが、ここイギリスはその楽しみ方がまた豪快。「踊る阿呆に、見る阿呆……」ではありませんが、とにかくみんな人生楽しみきらなければ損々とばかりにエンジョイしている様子でした。お洒落に懲りまくっている人から踊りまくる人。「どう、私を見て、見て!」状態の人からそれこそ熱唱オンパレードの人まで……それはそれは大騒ぎ!◎人間の多様性を限りなく尊重する
イギリスが多民族国家であることは意外と知られていませんが、特にロンドン近辺は人種のるつぼです。そんな現実を見事に反映してか、クラブ内でも実にさまざまな人が出入りしていました。イギリス人から、インド系の人。そしてアジア系まで、誰もが思い思いの自分を実現しようとしている姿にはとてつもないパワーさえも感じられてしまいます。人種のバラエティがベースにあるせいでしょうか、それぞれのTGたちがとても個性的にさえ見えます。トランスジェンダリズムの根底にあるものが「生まれつきの性から解放されること」、したがって「人間の多様性を限りなく尊重すること」にあるなら、このバラエティはとてもすばらしいものに思えました。
また一般に世の中から疎外されがち(?)であると自分で思い込んでいるTGが多いなか、こんな風に楽しめてしまうなんて、これは見習ってもいいことでしょう。もちろんナイトクラブという場で楽しんでさえいれば、問題は解決するというものでもありません。でも自分のTG性というものをそのまま素直に受け入れ、またそれをパワーとして持つことができるなら、それはそれで素敵なことかもしれません。なお肝心かなめのセイファーセックスということでは、特にTGむけのものは見られませんでした。◎TS/TVの二つしかないイギリスの概念
次にイギリスのトラニーにコンタクトしたのは、彼らの間で積極的に活動されている方(ここでは名前を伏せさせていただきます)。その人は、たとえばT-GAPのようなサポートグループというようなものは特に作ってはいませんが、なにかにつけトラニーたちの世話役になっているようです。
彼女と話していて一番驚いたのは、イギリスではTGという言葉があまり認知されていないということ。確かにTG(トランスジェンダー)はもともとアメリカで使われてきた言葉です。その意味ではイギリスが同じ英語圏でも、状況は違うのかもしれませんが、単純に言葉の問題として処理してしまうわけにはいきません。というのもTGという言葉の意義は、手術をしないというチョイスを私たちにしっかりと認識させてくれたことにあるからです。現にイギリスでは概念としてTS/TVの二つしかなく、それを言い替えるなら、手術をするか、さもなくば異性装者であるということになるのです。これではTGたちの多様性をまったく説明できないばかりか、誤った医学的処置さえ与えてしまいかねないくらい大ざっぱな分類であると言わざるをえません。これはイギリスのトラニーたちにとって、とても不幸なことであり、改善されるべきポイントであると思われました。◎本当にTG本位のことがなされているのか…
ドクターのお話も少し聞きました。現在イギリスではSRS(性の再判定手術)希望者がとても多く、順番待ちの期間は年単位にも及んでいるようです。
カウンセリングのシステムなどは一通り整っているというお話でしたが、前述のようにTGという言葉や概念が必ずしも整理されてはいないということを考えると、本当にTG本位のことがなされているのか多少不安にならないでもありませんでした。日本のTGたちの間にこの言葉がもたらされた時も、ずいぶんと反響があったものです。手術のプレッシャーを不必要に受けることから解放された人もずいぶんいたからです。◎よくわからないフランスのTG状況
イギリスの帰りに立ち寄ったフランスのこともすこし付け加えておきましょうか。どういうわけか、フランスのTGたちの状況がよくわからないのです。今回リサーチした範囲では、どうも彼らが見える存在ではないらしいということなのです。たとえば世界中のサポートグループを網羅しているディレクトリーでも、フランスには小さなものが田舎のほうにあるだけです。またTGたちが集まるようなナイトクラブやバーなども、たとえパリのような大都会でさえ今ひとつ見つかりませんでした。もちろん職業的なフィーメイル・インパーソネイタによるショーハウスなどはありましたが、それ以外のTGたちにはアクセスできませんでした。これがなにを意味するのかはわかりません。フランスでのTGたちは単に見えないだけの存在であるのか、それとも当り前のものとして認知されているのか。フランスの状況をご存じの方がいらしたら、ぜひお知らせいただけたらと思います。
次回もこの続編をご報告します。(T-GAPコーディネータ 志麻みなみ)
※T-GAPは現在活動を停止中です。