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政治活動は簡単だ

草田央 

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 この原稿を書いている時点は、総選挙の真っ只中だ。薬害エイズの手柄を吹聴したり、行政改革の必要性の例として薬害エイズが引き合いに出されることはあっても、エイズ問題を公約や争点に掲げる候補者は皆無に近い。

 では、エイズをめぐる政治課題が皆無なのかというと、実際は逆だ。今でこそ薬害エイズ問題が盛り上がった成果として、治療体制整備が進められようとしているが、必ずしも将来にわたる保証はない。治療などの視点を欠いたエイズ予防法はそのままで、厚生行政においてエイズは被害回復不能の病気であるという認識も変わらぬままだ。非加熱製剤が納入されていた医療機関名が公表されるまでのドタバタは、相変わらず患者の権利を無視したパニック防止という意識が強く働いたことが伺われる。ようやく好転の動きを見せつつあるエイズ情勢も、“ブーム”が去れば再び沈静化してしまう可能性は大いにあるだろう。まだまだ現場が厳しいことに変わりはないのに。

 エイズに興味を持ち、それなりに問題意識を抱いてきている私たちは、多少なりともエイズに関して公約なり争点に挙げている政党なり候補者がいれば、彼らに投票することで政治行動を取ることができる。しかし、そのような候補者は見当たらないし、どの政党の公約も、似たり寄ったりのものでしかない。一票を投じることが“唯一”の政治行動だと信じさせられてきた私たちは、似たり寄ったりの候補者という状況に、もはや政治的行動は取れないと諦めるしかないのか?


 「政治」というと、政治家や圧力団体等々の専売特許という、うさんくさい印象を私も持っていた。ところが、エイズをめぐる運動で署名集めや街頭宣伝をやっていると、これこそが政治行動そのものではないかと気付いてきたのだ。

 陳情や請願にしても、やってみれば大した物ではない。何のノウハウも要らないものでしかない。日本は民主主義制度という建前になっているから、陳情や請願という門戸は大きく開かれている。政治家に近づいたからといって、選挙協力をさせられるという経験も、今のところない。多少の勇気と行動力さえあれば、時間も労力もさして必要ないと言っても過言ではないだろう。

 もちろんそれだけでは、即座に結果が出ることは期待できない。何らかの効果を出していくには、継続性は必要だろう。しかし今の時代、当たり前のように政治行動している大きな団体より、一市民として、小さな団体として政治行動をとった方が影響力を発揮しやすいかもしれない。とった政治行動をうまくマスコミに報道してもらう連携も果たせれば、世論の形成とともに、じわじわとボディーブローが効いてくるのではないかと思う。


 今年の夏以降、何人かの協力の下に私が取り組み始めたのは、「非加熱製剤が納入されていた医療機関名の公表」と「HIV感染者の障害者認定」だ。他にも、「エイズ予防法の廃止」など、さまざまな問題を視野に入れている。

 こういった政策(と言うほど大袈裟なものではないけれど)には、それぞれメリット・デメリットがある。専門家集団の場合、そのデメリットが気になって、身動きが取れない状態に陥っていることが多いようだ。その点“素人”である私たちの場合、「まず動いてみようよ」と言いたい。問題があることは現場の人間が一番よくわかっている。そして、今のままじゃ解決できないことも。それなら「こうしたらいいんじゃないの!?」という意見を気軽に提言してみてもいいんじゃないかと思うのだ。実際に実行するのは、行政等々の専門家たちだ。とんでもない意見なら、採用されるわけもないし賛同も得られないだろう。だから、もっと無責任でいい。もし実現されてしまって、多大な弊害が生じたら、また作りなおせばいいじゃないのぉ。


 注意しなければならないのは、代案なき批判に陥らないことだ。私たちがやろうとしていることは、「創る」ことであって「壊す」ことではない。単なるケンカ腰の非難だけでは、何も生まれない。もちろん“是々非々”の態度は必要で、交渉相手が不誠実な対応をしてくれば、大いにケンカすべしである。けれど、最初の時点や創っていく過程においては、誠実さが基本だ。こうしたメリハリという“駆け引き”は、やっていくべきだと思う。

 しかし、誰かを騙したり利用したりという“駆け引き”は、疑問だ。そうした駆け引きは即効性が期待できるかもしれない。だけど、その不誠実さは、ながい目で見た場合、必ず露呈して来るものであり、決して良い結果をもたらさない。誰かを利用し騙したものは、誰かから利用され騙されるものでもある。正面突破を心掛けたい。

 また、私の言う政治行動は、必ずしも組織をつくり統制していかなければ実行できないものを指しているわけではない。日常の“片手間”にできる政治行動を言っているのだ。だから、“政策”一点のみによって、離合集散するネットワークを理想としている。それゆえ、各人の党派色は、できるだけ出さないことを暗黙の合意としなければならないだろうとも思う。働き掛けるのは保守派からにした方が、全党派の問題になりやすい。


 いずれにしても、これらの政治行動は、投票などとは比べられないほどダイナミックで楽しいものだ。政治行動にばかり走ってしまうと、現場から目が遠ざかってしまうし、政治以外にもやらなければならないことはたくさんある。でも、政治をタブーにし、愚痴ばかりこぼしている必要はない。

 あなたも一度お試しあれ。


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