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保健所からのエッセー
保健所ってどういうところ?

FAIDSスタッフ JINNTA 

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 分かっているようでよくわからない保健所。いったいどんなところなのか。何をしているのか。保健所のの仕組みをシリーズで解説します。
 第一回目の今回は保健所の組織についてです。

■保健所は「犬と食中毒と検診」だけじゃない

 保健所というのは、なんかわかっているようでわかりにくい役所である。普段は、「犬と食中毒と健診(それとエイズ検査か)」くらいしか思い浮かばないかもしれない。また、大きな都市に住んでいたときは、健康上のことがらは(たとえばこどもの健診)、何でも保健所に行けば解決したのに、ちょっと郊外に引っ越したら「保健所ではなく市町村の役場に行ってください」などといわれたりする。これは行政機構上のからくりが存在するためである。

 また、「犬と食中毒と健診」がイメージとして浮かぶものであるが、その他にも保健所の仕事はいろいろあり、それは直接的な住民サービスの他に、住民の健康水準を維持するために、健康上の問題を発見して仕事(行政サービス)を見直したり、健康に関して必要な新しい活動を行うための調査研究、企画調整などといわれる仕事の重要性がクローズアップされている。

 いったい保健所というのはどんなところなのか、その仕組みを今回からシリーズで少し解説してみましょう。

■政令市型と都道府県型

 さて、保健所と一口に言っても行政の機構上は大きく二つに分けられる。それは市立(東京の場合、東京23区は区立)の保健所と都道府県立の保健所である。

 市立の保健所にはいくつかの区分がある。まず、政令指定都市、これは都道府県と同等に近い役割を市が独自に持っているところであり、保健所も市が設置することになっている。たとえば横浜市や川崎市はこれにあたる。ついで、最近できた「中核市制度」による市の保健所がある。中核市制度は、人口が30万程度以上の規模の市で一定の条件をクリアーしたら、都道府県なみの行政ができるようにした新しい制度で、この中核市になるには保健所を持たなければならないことになっている。関東周辺では宇都宮市を皮切りに、いくつかの中核市ができている。一方、昔(マッカーサーの時代)、公衆衛生対策がとりわけ重要な都市には、都道府県ではなく市が保健所を持つように決められた(中には、マッカーサー時代からだいぶんたって、この「その他の政令市保健所」になったところもあるが)。この制度を現在、「その他の保健所政令市」などと呼ぶが、この経緯で市で保健所が設置されているところがある。東京23区(特別区)は、この「その他の保健所政令市」と同様の扱いを受けるので、特別区の保健所は区立となっている。以上が「政令市型保健所」と呼ばれるものである。

 これ以外の場所には、都道府県が保健所をつくることになっている。これが都道府県型保健所と呼ばれるもので、公衆衛生業務を市町村役場と分けあう(一部の仕事は二重構造になる)かたちで、市町村行政と都道府県行政の二層構造になっている。

 公衆衛生行政の仕事は、「市町村がする仕事」と「保健所がする仕事」の大きく二つに分けられている。この二つの「市の保健所」「都道府県の保健所」の大きな違いは、市の保健所は「市町村がする仕事」と「保健所がする仕事」の両方を持っていることである。ただし、市の保健所では、一部の業務は都道府県に任せていて、行っていないところがあるし、新しく市の保健所を作ったところでは従来の都道府県型保健所の仕事だけを引き継ぎ、従来の「市町村の仕事」は別の組織で行っているところもある。都道府県の保健所は「保健所の仕事」だけを行い、「市町村の仕事」は行わないが、かわりに市町村役場に対しての後方支援的な仕事が割り振られている。

■「市町村保健センター」

 一方、ややこしいものに、「市町村保健センター」というものがある。これは保健所ではない。現在、多くの直接的な対住民サービスは市町村の役割と位置づけられている。そのための住民にとって身近な「場」として保健センターが整備されることが法律に明記されている。センターには保健婦や栄養士などの関係専門職を配置して、たとえば身近な健康上の相談事を持ち込んだり、健診をしたり、健康教育をする場所としてフルに活用されることが期待される建物である。ただ、設置はその自治体の判断に任されるので、必ずしもすべての市町村に設置されているわけではない。役場でしていた仕事をセンターに引っ越し充実させたものだと考えるといい。

 多くの直接的な住民サービスが市町村の仕事になっているという意味では、現在は市町村保健センターが公衆衛生業務の第一線であり、都道府県の保健所は、多くの人にとっては、特別な用事がある時に行くところであって、必ずしも身近な場所ではないかもしれない。

 なお、以前は、市では保健所と保健センターを同時に持つことはできなかったが、法律が改正されて、保健所政令市は保健所と保健センターの両方を持つことができるようになった。この持ち方は、市によってもさまざまで、保健所を中核にして保健センターを配置するようなところもあれば、従来の市町村の仕事は保健センターで、都道府県の保健所から受け継いだ仕事は市の保健所で行っているようなところもある。

■保健所と福祉事務所の関係

 保健所と福祉事務所と比べてみると、大きな違いがある。市は必ず自前の福祉事務所を持たなければならない。規模の小さい多くの市では「福祉課」が看板上「福祉事務所」ということになっている場合も多い。従って、この場合は、福祉事務所へ行くというよりは、むしろ市役所に行って手続きするという感じになる。郡部では、一部の町を除いて、都道府県が福祉事務所を持っている。もっとも、都道府県の地方事務所と呼ばれるところに福祉課を設置すれば、福祉事務所を作らなくてもよいという例外があるので、場所によっては都道府県地方事務所と言うところがこの仕事を代行している。

 ただ、現実には、たとえば身体障害者認定の窓口など、多くの福祉業務は市町村役場にうつされているので、県の福祉事務所の仕事は、生活保護を除くと、多くは企画調整業務となっており、県の事務所に出向く用事は普通はそんなにないようである。

 だいぶん前から、保健福祉の連携ということが叫ばれており、中には保健所と福祉事務所を統合するような都道府県が現れた。ただし、この統合の是非については、真に住民サービスの向上につながるのかどうかという点では、賛成派と反対派で論争があるところである。一方、市町村レベルでは、主に高齢者対策の観点から、総合的に相談できる窓口が求められており、その点で保健と福祉とが同じ課ないしは同じ保健センターで一緒に仕事をするという自治体も現れている。

■「社会資源」的存在でもある保健所

 保健所の職員は、想像以上に多くの職種がいる。それぞれの仕事は次回以降にお話しするが、事務職以外にざっとあげれば医師、保健婦、栄養士、診療放射線技師、臨床検査技師、獣医師、薬剤師が配置され、精神保健福祉相談員(社会福祉職)や理化学・農学領域の専門職、家政学領域の専門職、歯科医師、歯科衛生士、心理職、理学療法士、作業療法士、聴覚言語専門職などが配置されているところもある。

 ただし、これらの職種のイメージは、一般のイメージとかなり異なる。たとえば医師にしても、病院のように診療をするわけではなく、健診や相談などを除けば、普段はむしろ「事務」ととらえられるような仕事をしている。その他にも獣医師が理美容関係の仕事をしていたり、薬剤師が食中毒の仕事をしていたりと(このあたりは自治体によってさまざまである)、一般にとらえられている職種とのイメージが違う。

 一方、保健所が設置されていない市町村(市町村保健センター)では、一部の例外を除いて専門職は保健婦、栄養士であり、そういう意味では保健所は「社会資源」的な存在といえる。しかし、公衆衛生職としての専門性はまた別に存在する。たとえば医師にしても、どんなに「患者を治す名医」であったとしても、保健所ではその技術は全くと言っていいほど通用しないし、むしろ邪魔になる場合すらある。保健所の医師には、病院の医師とは全く違う専門性(公衆衛生医、行政医と言われる専門性)が求められている。上記の多くの専門職が、その「公衆衛生職種」としての専門性を十分に発揮できるかどうかが、現在保健所に問われている部分でもある。

 今回は、保健所という組織についてお話ししてみた。次回は保健所の仕事についてお話ししてみたいと思う。

JINNTA/FAIDS staffエイズ教育会議室担当
ホームページ http://homepage3.nifty.com/hksk/jinnta/


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