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〜医療者の新たな取り組み〜
「管理」「指導」から「援助」の視点へ

服薬検討会 堀 成美 

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 抗HIV薬の選択肢の増加、血中ウイルス量検査の実用化、一部研究機関での耐性検査の実施など、HIV感染症の治療の進歩はPHA(HIV感染者・患者)だけでなく、医療者にも大きな変化をもたらした。

 抗HIV薬の組み合わせをどうしたらいいか、抗HIV薬の服用によって生じる生活リズムの変化にどう対応するかなどPHAが頭を悩ませている中、医療者もまた新たな課題をかかえている。

 医療機関格差・医療者格差がいわれるなかで、医療者はどのような取り組みをはじめているのだろうか。「抗HIV薬の効果的な服薬援助のための検討会」で課題の解決やケアの向上のために尽力されている堀成美さんに話を伺った。

 ■医療者が自発的に集まった「服薬検討会」

「抗HIV薬の効果的な服薬援助のための検討会」(以下、検討会)は、HIV診療に携わる医療者が自発的に集って勉強会を開いています。プロテアーゼ阻害剤や日和見感染症の治療、ウイルス量の測定といった新しい治療や技術が臨床で活用できるようになり、HIV疾患の治療が大きく変化し、患者さんの健康や生活も大きく変わりました。そのこと自体は前向きな明るい話ではありますが、現在の治療は効果を継続させるためには時間や食事の制約を守ったり、複数の副作用症状をコントロールしたりと多くの努力や負担が要求されます。検討会では、治療を継続するため、効果を維持するためにこの治療による患者さんの負担や障害をなるべく少なくするにはどうすればよいのだろう、治療を開始する時や開始した後の問題を解決するにはどうしたらいいのだろう、といったことを皆で考えるために始まりました。一九九七年の熊本のエイズ学会がきっかけとなって始まりました。服薬の困難さ、薬剤耐性によって治療の選択肢を失うことは医療者にとっても大きな課題であるという認識を第一線の医療者はこの時すでにもっていたということです。

 この検討会は一九九九年七月までに5回開かれています。医師だけでなく、患者をサポートするリソースとしての薬剤師・ナース・MSW・心理職がメンバーであり、ここ数回は治療の体験談を感染者が語ったり、感染者サポートを行うNGOや、製薬メーカーの担当者も参加して、課題の解決やケアの向上のための議論を深めています。

 ■単なる指示や励ましではない「具体的な支援」

 検討会の中で症例や治療の情報を学ぶ以外に私たち医療者が学んだり気づいたことがあります。

[1]「指導」というスタンスから「援助」というスタンスへの変化
この会はもともと服薬「指導」のための検討会という名前でした。しかし、治療がうまくいかない症例、とてもうまくいっている症例、工夫の仕方等の検討を続ける中で、治療がうまくいかないことの理由の一つに医療者が一方的に指示や処方をしたり、飲めているかどうかの判定を行ったり、うまく飲めない原因は患者側にあると意識的無意識的に考える傾向があることに気づきました。障害や問題をなるべく少なくすることは医療者と患者共通の課題であり、医療者は十分なコミュニケーションのなかで患者ひとりひとりの生活や価値観を尊重し、単なる指示や励ましでなく、具体的な支援を行う努力が必要であると認識しました。さらりと書いてしまうと当たり前のことのようでなんですが、他の慢性疾患と同様に、すべての医療者が免許があるとかそのポジションにあるということだけでは実践できていないことは紛れもない事実です。

 このような経緯から会の名前は「指導」から「援助」にかわりました。言葉がかわっただけじゃないかと思われるかもしれませんが、私たちの思考や行動はこうしたちょっとした概念によって大きくかわるものなのです。同様にそれまでの「コンプライアンス」から、「アドヒアランス」という概念を取り入れ外に広めていくことも活動の重要な部分となっています。

 ■医療者個人では超えられない問題の解決を

[2]医療者間の情報共有の難しさ
 HIVに関連する情報はめまぐるしく変わります。患者さんは当然、「医療者は専門家なのだから当然最善の努力をして治療をするだろう。私の受けている治療はこの時代でもっとも適切なものだろう」という期待をもたれるだろうと思います。しかし、医療者のもっている情報や経験、また先に指摘したような問題に気づいているかどうかで日々の実践としての診療に大きな違いが生じます。患者をたくさん診ている病院からすると、患者数の少ない医療機関の実践には疑問がたくさんありましたし、「よくわからないならなぜ調べないのだろう、質問しないのだろう」と、ある種、批判的な視線を向けていたと思います。しかし、検討会の中で直接話をして、医療者個人の努力だけでは越えられない問題や医療そのもののカルチャーが障害となっていることに気づきました。

  • 医療者(特に医師)同士のコミュニケーションはもともと難しい。患者や同僚に対して「わからない」「知らない」ということを言うのが難しい。同じ病院であっても情報や治療は均一である保障はなく、またコミュニケーションがよいということではない。外の病院に相談するのは「忙しいから無理だろう、わるい」というような遠慮がある
    →検討会で実際に知り合い、信頼関係のもとに効果的に情報を交換したり相談できるようになった。
  •  というような学びがありました。

     ■医療者がサポートし合える関係作りの「課題」

     いろいろ気づいたりサポートしあえる関係ができ、今後もこうした活動を継続していく努力は可能なかぎり続けようと話あっていますが、同時にいくつかの問題にもぶつかっています。

    1. 参加者が臨床の第一線にあり多忙で、予算・会場・連絡という組織運営に関する余裕がない
      →具体的なニーズとして社会や関係者が認知して医療者支援のための専門機関が必要な時期にきているのではないか?
    2. クローズドの情報は広まらず、検討会にアクセスのない医療者とは情報の共有がむずかしい
      →問題に気づけば対応が可能であるが、問題に気づかないところでは古い情報や誤解などから誤った実践につながるおそれがある。それをよりよい方向へ動かしていくのは誰の責任や課題であるのか?
    3. 参加者は各地域から集っており、遠方の人の交通費などの個人の負担が大きくなる
      →個人の負担・努力だけでは限界が生じるのではないか?
    4. 現在拠点病院に患者がいない・少ない一方で、最初にHIV感染をみつけるのは一般の医療機関であり、こうした医療機関や医療者にはさらに情報やサポートが不足している
      →検査で不要な傷つき体験を与えないように、十分な説明や情報提供ができるよう、早期発見早期治療につながるための情報や研修の機会を提供していく必要があるのではないか?

     というような問題があります。

     ■「どれだけ患者さんに役立っているのか」

     「HIVは他の病気に比べて特別扱いをされている」とよく言われるほどに、一般論として予算やマンパワーは恵まれているのも事実です。情報は厚生省エイズ治療研究開発センター(ACC)などから提供され、拠点病院は一般医療機関に、ブロック拠点病院は拠点病院に情報や教育を提供することになっています。支援体制はあることになっています。しかし、実際には「情報は院長や上司のところでとまっている」「通常業務が忙しくてHIVだけ特別扱いすることはできない」「ナースは研修に出しても異動してしまう」「体制や経験がちがうのに同じようにやれといわれてもできない」「経験がないのに他の病院の指導までやれない」という意見も存在します。

    様々な利害や課題が錯綜する中で私たち専門職が問題の本質を見失わないためには、今自分が実践していること、今ある治療やケア、医療システムがどれだけ患者さんのための診療やケアに役立っているかということを問う必要があると思います。また、どれだけ信頼関係にもとづいた診療や協力ができるのか、オフィシャルな情報以外の多様な情報を入手したり検討するチャンネルを持てるのかということがカギになるように思います。

     ■医療者のサポートの場として年内に2回開催

     どれだけの努力をしても、治療そのものの難しさは残りますし、全体として感染がひろがっていくのは現実です。年内にあと2回検討会が開催されますが、医療者のためのセルフサポート、ピアな立場でのサポートの場として発展させていけたらと思っています。

    連絡先:服薬検討会
    連絡担当:堀 成美

    ※服薬検討会のこれまでの活動については HIV/AIDS看護研究会(JANAC)のホームページに掲載されています。

    参考資料:

  • 特集「服薬の行動科学-指導から援助へ」医学書院発行「看護学雑誌」98年11月号
  • 日本エイズ学会誌1・2号 サテライトシンポジウム記録「抗HIV療法とアドヒアランス-失敗しないためのポイント」

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