■エイズ学会最終日、抗HIV 薬の服薬アドヒアランスへの関与因子を探り、その構造と働きを調査・研究した発表があった。今後の服薬援助はどうあるべきなのか。
12月4日、「服薬アドヒアランス」(座長:山田治・桑原健)のセッションにおいて「抗HIV薬の服薬アドヒアランスの関連因子についての研究―なぜ飲めているのか?」(村上未知子、東京大学医科学研究所附属病院相談室)、「抗HIV薬の服薬を『支えているもの』についての研究―維持因子の構造と働き」(井上洋士、東京大学大学院医学系研究科)という2つの発表が行なわれた。
これまで「服薬を妨げているもの(=阻害因子)」に焦点を当て、その除去に力点を置く調査研究はなされているが、この研究は「服薬を支えているもの(=維持因子)」の構造と働きを検討し、今後の抗HIV薬服薬援助に役立てることを目的としている。エイズ学会では抗HIV薬の服薬率が93%以上の「服薬良好群」20名とそれ以外の「服薬困難群」6名についての中間結果が報告された。
周囲の支援
面接調査及び自記式調査票で回答された維持因子、阻害因子の内容(自由回答)は表の通りであった。
「服薬を支えているもの」
周囲の人の支援(15)
効果への期待感(13)
生きがい・生きていく意欲(10)
健康状態悪化へのこわさ(5)
飲みやすいregimen・薬剤(2)
経済的負担の軽減(2)
病気のことを気にしないこと(1)--------------------------
自由回答結果。
回答者数26名。カッコ内は人数。「服薬を妨げているもの」
服薬タイミングの難しさ(20)
食事との関係の難しさ(12)
HIV感染を人に知られたくないこと(8)
副作用の出現(6)
薬の管理方法の難しさ(3)
効果のなさ(2)
服薬に伴う生活制限(1)
体調の悪さ(1)
経済的負担(1)
特になし(3)村上氏の報告によると、維持因子は精神健康が良好で、周囲の支援があると感じている人ほど高く、また「今後も飲み続けていきたい」という服薬意思も高い。阻害因子は身体的健康度を低く感じている人ほど高く、自己効力感や服薬自信、結果期待感も低いことが示唆された、という。維持因子がある=阻害因子がないこととはならないことが明かになった。また、維持因子の「周囲の人の支援」の構造と働きを検討していくことが今後の服薬援助の方向性を明確にする上で重要だとした。
「そこにいること」
村上氏の報告を引き継ぐ形で井上氏の報告があった。井上氏は服薬良好群16ケースの面接調査における叙述について質的分析を行なった。
井上氏によると維持因子として対象者が多く挙げていた「支援」の質や内容はその相手によって違いがみられたという。同じ疾患を持つHIV陽性者に対しては「連帯感」を感じ、服薬や治療について様々な情報交換を行なう「informational」な存在、医療者へは「専門家」であることを求め、対象者自ら判断したことへの「お墨付を求める」「安心感を得る」「担当の先生を喜ばせたい」など「emotional」な存在、家族や友人は服薬時間を思い出させてくれたり、食事の準備負担軽減など「instrumental」な存在としても受け止められていた。そしてそれらを無自覚、自覚的、時には戦略的に使い分けていた。
井上氏は「服薬意思」と「服薬自信」が関連しない点についても検討し、服薬援助にあたっては阻害因子の除去だけでなく、「生きていくことの意味付け」「人生の肯定」「支援」等の多様な維持因子に注目することの重要性が示唆された、とした。特に「支援」については「そこにいること」「あなたがどんな判断をしようと私は拒絶せずにここにいる」というメッセージを医療者が患者に積極的に提示すること、病を持って生きていくことについて考える時間的余裕を提供することが重要であるとした点は非常に興味深かった。
[ よしおか ]