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社会福祉・医療事業団(高齢者・障害者福祉基金)助成事業
第1回ピア・カウンセリング研修会報告

サブファシリテーター・PHA 岡部翔太 

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国立オリンピック記念青少年センター 99年5月14日〜16日まで国立オリンピック記念青少年センター[右写真]で「第一回ピア・カウンセリング研修会」が行われました。全国のPHA(HIV感染者・患者)やNGO・NPOから予想を超える多数の応募があった中、18名の参加者を迎え、2泊3日の日程で開催されました。ファシリテーターはカリフォルニア大学エイズ予防研究センターの鬼塚直樹氏でした。
 研修会がこんなに早く実現するとは夢のようです。サブ・ファシリテーターを務めさせていただいた僕の体験を通じて、当日の雰囲気を感じていただければ、と思います。

 ■全ては咀嚼セミナーから始まった

講師
ピアカウンセリング
『性の自己決定能力を育てるピアカウンセリング』(高村寿子編著、松本清一監修、小学館、1999年、2,200円)※鬼塚直樹氏も執筆しています。
 去年10月にピア・カウンセリング咀嚼セミナー(ピア・カウンセリングのスキルを日本向けに改良する研究を進める高村寿子氏[自治医科大学看護短期大学教授]、桜井賢樹氏[エイズ予防財団国際協力部長兼研修研究部長]、鬼塚直樹氏[右写真]により開催されたセミナー。ニュースレター25号参照)に参加してから、僕は何か打ちのめされたような気持ちで、ずっとピア・カウンセリングについて考えていました。
「感染者の人がいるとリアリティがあるから、是非岡部くん来てね」
 と鬼塚さんに誘われたことに気を良くして、ノコノコとついて行った私がバカでした。
 そこで行われていたディスカッション、講義の内容、何もかも理解できなかったのです。たまらず、途中で帰ろうかと思ったくらいでした。「質問はありますか、と聞かれても今、行われているディスカッションの内容自体がわからない!」と半ば投げやりで意見してしまったあの日。ただ、カウンセリングのロールプレイ(カウンセラー、クライアント、観察者といった役割を決めて行なう実習)やコ・カウンセリング(参加者同士で行なうカウンセリング)はなんだか楽しくて、本来、負けず嫌いの翔太くんは、「今度、ピア・カウンセリングの研修がある時は、もっと勉強してから来る!」と鬼塚さんに固い誓いを吐き捨てるように言って、会場を後にしたのでした(だって、本当に悔しかったんだもん)。
「勉強してから来る!」とは言ったものの、日本で本格的にピア・カウンセリングを勉強する機会なんてなかなか見つからなくて、どうしようかと思っていたんです。
 調べてみると、カウンセリングの勉強ができるところはいくつかありました。そして分ったことは、ピア・カウンセリングのスキルであるアクティブリスニングはどのカウンセリングの講座でも同じということでした。ただし、その講座にもよると思いますが、アクティブリスニングと言う言葉を使わず、『傾聴』という言葉を使っているかもしれません。先日、僕が通っている講座の小テストで『傾聴』のところを『アクティブリスニング』と書いたら、しっかり×を頂きました。なぜだと質問したら、教科書通りの答えをしないとダメだということでしたが…(でも、講義の時の客員講師はアクティブリスニングと言っていたんだけどな)。ということは、○○○カウンセラーの○○○の部分はカウンセラーの分類の為の項目の違いや、その専門性を指す名称であって、勉強する内容自体はさほど変らないということです。僕がピア・カウンセリングにこだわっているのは、カウンセラーが専門家ではなくとも行えるというところです。多くの人間関係、コミュニティの中で大小問わず「共通項の相互認識」が行われていて仲間意識、すなわちピアがそこに生まれ、なにか問題が起こったときに助けや理解をまずはそのピアに求めるのではないでしょうか。そのコミュニティの中にピア・カウンセリングのスキルを持った者がいれば、問題解決へのプロセスが堅苦しくなく、友人同士の会話の流れとして導かれていくことでしょう。また、クライアントの抱えている問題が治療的対処が必要と見られた場合、専門性をもったカウンセリングや医療への橋渡しがスムーズに行われるのではないかと思っています。
 僕が勉強したいのはピア・カウンセリングだけども、スキルの一つであるアクティブリスニングを継続して勉強し、自分のものにしなければ何も始まらない。そう考えるとまず、カウンセリングを学んでみるのもいいかな、と思い始めました。ピアカウンセリングにもカウンセリングにもそれぞれいいところがあります。そのいい部分を両方組み合わせることができれば、それはなんと素晴らしいことでしょう!
 と一人で勝手に盛り上がっていたんだけど、代表の清水くんのように大学に行く時間もお金もないし…(別に清水くんが時間とお金を持て余しているって言ってるんじゃないよ。彼の目指す社会福祉士の資格は大学に行かないと取るのがとっても大変らしいのです)。いろいろ調べた結果、産業カウンセラーの養成講座に通うことにしました。

 ■毎週のように出る課題にヒーヒーいう翔太

 産業カウンセラーの養成講座は4月から始まりました。ほぼ毎週日曜日の9時から5時までみっちり理論、実習などの講義が行われます。その中でも大変なのが毎週のように出る課題。「幼い頃の最も印象に残っている事」とか「話を受け入れてもらえなかった時」などという題目でレポートを書いていかなくてはいけないんです。また、面接実習の授業では、毎回、自分に起こった出来事を露出しなければならない。授業の中ではプライバシーなんてあったもんじゃない。まして毎週、何かの出来事なんて起こりはしない。講師陣には、「自分をさらけ出すことによって、自己開示が達成される」とか言われちゃって、そうかな〜と思いながら今日は何を話そうかと考えているのでありました。2泊3日で終わったピアカウンセリング咀嚼セミナーでさえ、けっこう疲れたのに(とはいっても心地よい疲労感ってヤツでしたが)、これがあと数ヶ月も続くのかと思うと、休んでしまおうかと思うんだけど、この講座は全行程の内で一日しか休みが認められないので、何かの時のために取っておかなければと思うとむやみに休めないのです。あ、でも鬼塚さんがサンフランシスコで受けたピアカウンセリング研修も毎週通っていたって言ってたっけ。いろいろなスキルを知るだけじゃなくて、身につけるっていうのはしんどいもんですな。ローマは一日にしてならず? って違ったっけ? 続けなければ意味がないのですよね。スキルを身に付けるために積み重ねていくというのはもちろんなんだけど、続けていると体調の良くない時や気分のすぐれない時と調子の良い時の自分自身の違いなんかも見えてくる。そうすると、クライアントに対する対応や自分がどうすべきかなんかも見えてくるのです。

 ■全国のPHA、NGOが集う研修会が実現へ

 さて、話はちょっと戻りますが、僕が「カウンセリング修得作戦」を考えている時、清水くんはなんとも大それたことを考えていたのデス。咀嚼セミナーの時、鬼塚さんと清水くんをはじめとする何名かの人が「このピアカウンセリング養成講座のテキストができ上がったら、全国のPHAやNGO・NPOの人を集めた研修をやりたいね」なんて話をしてたのは僕も知ってました。「やりたい、やりたい」なんて、いつもの無責任な相づちは打ったかもしれませんが、実際はお金のこともあるし、まさかこんなに早くというよりも、実現するなんて思ってもいませんでした。
 そうなんです。何と、ダメもと(失礼!)で出した助成金の申請が通って、99年度中に3回のピアカウンセリング宿泊研修が実現することになったんです。清水くんはいつから助成金の申請をしようと考えていたのでしょう。あいつ、あなどれないゾ!

 ■開催する側の苦労と楽しみ

 準備をはじめてみると、会場探し、参加要綱の作成・配付、資料作り、予算案の練り直し、交通費の計算、ネームカードやテキスト制作、交流会の場所探しなどなど結構大変で、スタッフみんな、学校や仕事の合間をぬって進めていきました。海外にいる鬼塚さんとはインターネットのメールでやりとりし、来日した時にまとめて打ち合わせをして、研修内容自体はほとんど鬼塚さんにお任せしてしまいました。僕はといえば、てっきり「スタッフ特権」で、参加枠を確保してもらって参加者としてじっくり研修を受けられると思っていたのに、いつの間にかサブファシリテーターなるものになってしまいました。数カ月前の咀嚼セミナーで全くわからなかったのに「おいおい、大丈夫かよ」と言ったところでもう遅く、すっかりお膳立てはできていて断る間もなく当日になってしまったのでした。

 ■参加者の中に少しづつ生まれてくるピア意識

 まず、初日は、アイスブレーキング、セミナーの概要、グランド・ルールと進めていきました。アイスブレーキングは他己紹介を行いました。他己紹介は、ペアになってお互いのインタビューをし、相手のことを参加者に紹介するというものです。これは、参加者同士を打ち解けやすくし、相手の話を正確に聞くところはカウンセリングのスキルであるアクティブリスニングに通じるものです。グランド・ルールは、参加者が安心して参加できる自由な雰囲気や、自由な発言をできるようにするためのルールです。守秘義務を必ず守ること、自分のペースで参加する、自分の経験から話をする、ジャッジメンタル(批判的、決めつけ)にならないなどの項目で構成されています。その後、交流会へと進み、一日目は終わりました。
 最初は、参加者は鬼塚さんの話にもあまりピンとこない様子も見えていました。ほとんどがお互い初対面で、これから何が始まるのかという感じが伺えました。しかし、他己紹介で話をする機会を作られると徐々にほぐれてきて、交流会ではかなり打ち解けたという感じが見えました。
 二日目は、午前中、ピアカウンセリングの説明や基本概念、八つの誓約など、講義中心に行われました。この部分は日本向けに改良されている部分があるのではないかと思います。午後は、いよいよアクティブ・リスニングの実習です。三人づつのグループに分かれ、
カウンセラー、クライアント、観察者の役割を交代しながら、事例をもとにロールプレイを行いました。そして、コ・カウンセリングを行いました。コ・カウンセリングとは、参加者同士でカウンセリングをし合い、できるだけ実践に近い状況のなかで、これまで学習してきた基本的スキルなどを実際に使ってみるエクササイズです。
 三日目は、午前中、要約するスキルと統合するスキル、基本的スキルのまとめなどの講義を行い、午後は、二回目のコ・カウンセリングのエクササイズを行いました。

 ■ロールプレイの事例では服薬援助がテーマに

 事前に何人かのPHAとディスカッションしながらロールプレイで使う事例を作りました。みんなが感じている問題や、実際の体験などいろいろ話をしている内に出てきたのが服薬援助の問題、薬の副作用。あと転院のことも取り上げました。その時々のホットな話題を取り入れ、なるべく今、PHAが抱えている、抱えていそうなことを取り上げるようにしたつもりです。それは、問題意識を高められるようにし、リアリティを持たせたかったからです。
 また、ロールプレイの例として、鬼塚さんと僕が小芝居(けっこう女優? なんだな、コレが)を演じる時に、僕自身もクライアント役の時と実際の感染者である部分にギャップが生じず、とてもやりやすかったです。

 ■「コ・カウンセリング継続講習会」開催が決定

 ノリというのは恐ろしいもので、最終日に鬼塚さんとの雑談の中で突然こんな展開になってしまいました。せっかく学んだスキルを今日で終わりにしないために、定期的にコ・カウンセリングの実践の場を作ろうという発案です。
 スキルを練習するにもなかなかそういう場はありません。だからといって、身近な人(ピア・カウンセリングのスキルを持たない人)と練習するのは危険を伴います。また、参加者が各自、スキルを持ってそれぞれの場所に帰った後の報告会も兼ね、せっかくできたピアな関係を継続していくための交流会みたいなものになればと思っています。これが、定期的に行われることになれば、ピア・カウンセラーのネットワーク作り、ファシリテーターの育成などにつながることでしょう。それは、HIVの予防にもつながることです。まぁ、なんだかんだ言っても結局はみんなと別れがたくて、集まるキッカケを作りたいだけなんだけどね。このノリは、決して僕達のいい加減さからではなく、参加者の何か掴もうという一生懸命さがそうさせたのだと思います。

 ■今年度中にあと2回開催されます!

  ピア・カウンセリング研修会は今年度中にあと2回開催されます。次回は京都で9月に、3回目は再び東京で開催する予定です。
 それ以降も継続させて、できるだけたくさんの方に参加してもらいたい研修会なのですが、こればかりは先立つモノも必要なので、助成金などがいただけることになればと思っています。今回参加されたピア・カウンセリングのスキルを持った人達18名はそれぞれの場所で活躍してくれることでしょう。今年度中にあと2回ということは18人×3回で54名のスキルを持った人達が生まれるのです。継続されればネットワークはもっと広がり、HIVコミュニティ[注]のエンパワメントにも繋がることでしょう。
 って、最後はちょっとキレイにまとめちゃったけど、研修会に興味のある方はLAPまでお問い合わせください。待ってます!

[ 岡部翔太 ]

[注]HIVコミュニティ
 HIVに感染している人やその周りに居る大勢の人たちを指す概念として鬼塚直樹氏が提唱。「感染非感染を問わずに、HIVによって動かされ、そのケアの渦の中に引き込まれてしまった人達がたくさんいて、その人達を『HIVコミュニティ』と呼ぼうとするわけです。そしてそこには、地理的あるいは社会構造的にはかけ離れている場合があるかもしれませんが、力強い『共通項』が存在しているはずです。この『共通項』を『相互認識』することにより、『ピアという場』をそこに作りうるのです」(鬼塚直樹、LAPニュースレター第25号より)


1999AIDS文化フォーラム in 横浜 公開講座
「ピアカウンセリングへの取り組み」(終了)

 今年で6回目を迎える「AIDS文化フォーラムin横浜」にLAPも参加し、「ピアカウンセリングへの取り組み」と題した講座を持ちます。

 この講座はピア・カウンセリング研修会の概要を紹介させていただくとともに、「ピア・カウンセリングがHIVコミュニティーのエンパワメントにどういったインパクトを持ちうるのかを参加者と一緒に考えていくこと」を目的としています。

 これまで私たちには「ピア・カウンセリングと聞いてもピンとこないんだけど…」「カウンセリングとピア・カウンセリングってどうちがうの?」「研修会はどんな雰囲気なの?」といった質問が届いています。もちろん、限られた時間の中でピア・カウンセリングの全体像を説明しつくすことはできません。ただ、ピア・カウンセリング研修会の概要を紹介する場を持つことで、参加者の方々に少しでもピア・カウンセリングの可能性を感じていただければと考えています。

■1999AIDS文化フォーラムin横浜
 日時 1999年8月6日(金)〜8日(日)
 場所 かながわ県民センター(横浜駅西口より徒歩5分)
 主催 「1999AIDS文化フォーラムin横浜」組織委員会
 共催 神奈川県
 後援 横浜市、川崎市、横須賀市、横浜商工会議所(申請中含む)
 ホームページ http://ymcajapan.org/yokohama/jp/AIDS/
 事務局 横浜YMCA内AIDS文化フォーラム事務局
   TEL045-662-3721 FAX045-651-0169

■LAP講座「ピアカウンセリングへの取り組み」
 日時 1999年8月8日(日)10時〜12時
 場所 かながわ県民センター4階405室


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