6月3日(土)、都立駒込病院でAIDS&Society研究会議(代表:根岸昌功)が主催するフォーラムが開催された。司会は池上千寿子氏(ぷれいす東京)だった。
当日は「疫学研究は誰のために何をどう研究するのか」について活発な議論が行なわれ、またコミュニティへ成果を還元することの重要性などが指摘された。
第一部ではシンポジストの鎌倉光宏氏(慶応義塾大学医学部公衆衛生学講師)、市川誠一氏(神奈川県立衛生短期大学教授)、桃河モモ子氏(SWASH)が発言された。
鎌倉氏は世界と日本のHIV感染者の動向等を解説され、疫学データを収集する際の人権の配慮について海外の例をあげ、日本との比較をされた。また感染症新法によるHIV感染動向に関するデータの収集についての問題点も指摘された。
市川氏は日本人の男性同性間のHIV感染動向について「出生年別に見ると20歳代(70年代生まれ)と30歳代(60年代生まれ)が増加し、この4、5年は20歳代の増加が著しく、これまでの予防啓発は現在の若者には浸透していなかったことが示唆される」とMSM(男性とセックスする男性)への予防啓発に真剣に取り組むことが急務であるとした。市川氏は行政、CBO/NGO/当事者(=ゲイコミュニティ)、そして市川氏を含む研究者という3者の協働プロジェクト「MASH大阪」(http://www.mash.gr.jp/ 2001年7月現在閉鎖中)の活動を紹介。3者は「感染者の増加を減らしたい」という同じ目標を持つことで1つのプロジェクトを組み、MSMへのHIV講習会、クラブやバーでの性行動調査、コンドーム大作戦等の予防啓発活動などを行い、5月には「Switch2000」というイベントを開催した。
SW(セックスワーカー)として働く桃河氏は95年に数人の仲間とグループを作り活動をはじめた、という。その活動の一部が発展したかたちでSWASH(Sex Work And Sexual Health)が生まれた。SWASHは厚生省疫学研究班と共に「日本の性風俗産業の構成」等の調査を行なうなど、SWの性の健康と予防介入に関する研究や情報発信をコミュニティで実施している。そうした経過やヘルスで働く女性たちの意識・予防行動調査の結果が発表された。桃河氏は「コンドームを使いなさい」というのではなく、「コンドームを使うとこうなる」「使わないとこうなる」ということを伝えることが重要とし、「SWはセーファーセックスの教師である」といわれていた。
第二部の質疑応答では疫学調査(動向調査)を行なう際には大義名分ではなく、情報提供が必要であるという意見が出された他、調査結果が一人歩きし、「こういうグループは危険」といったレッテルがはられることはレッテルをはられなかったグループにも影響があるという「偏見のダブル効果」も指摘された。
また会場から「市川先生は手品のようなことをやった」との発言があった。市川氏らが厚生省疫学研究班で行ったこの「研究」は新しい具体的な予防啓発事業を含んだ「実践」と呼ぶべきものといえる。「研究者である自分は裏方にすぎない」と『コミュニティ主導』を強調する市川氏だが、市川氏が地道に形作っていった「3者の信頼関係」こそがこの手品のタネと仕掛けといえるのではないだろうか。私はA&S研究会議のフォーラムにはじめて参加したのだが、予定時間を超えての熱気あふれる議論に力づけられた。そして疫学というものを身近に感じることができた。
[よしおか]