98年4月1日からHIV感染者の障害者認定がスタートすることが決定しました。国も自治体も病院もその準備に大忙しなのですが、認定基準や申請の手続きについて少し詳しく紹介したいと思います。細かい部分などまだ未確定のところもありますので実際に申請する際にはソーシャルワーカーなど詳しい方にご相談されることをお勧めします。
■障害者認定の持つ意味
HIV感染者の障害者認定の実現に尽力された東京都職員共済組合清瀬病院・医療ソーシャルワーカーの磐井静江さんは障害認定の持つ意味について次のように言っています。
「障害者認定の持つもっとも大きな意義の一つは、国と国民が責任を持って障害者認定を受けた人の社会参加を保障するような意識を持ち、行動しなければならないという『宣言』になっていることなんです」
確かに、これまで「HIV感染者は差別や偏見でたいへんだ」「正しい知識を持とう」などとさんざん言われてきましたが(多くは言われていただけだったのですが)、ようやく具体的で実効的な形で社会的支援が行われていくようになったわけです。
※磐井静江さんのインタビューは次号で掲載予定です。
これまで行政機関などから、どちらかといえば社会防衛のための「管理」の対象と捉えられていたHIV感染者ですが、今後は福祉の対象者となり、行政機関などは感染者のために「努力」していくことになります。
■認定基準の解説
障害等級に関わる認定基準は前号でご紹介した通りですが、3月2日付の厚生省の文書等をもとにもう少し詳しく解説します。
CD4細胞数は「4週以上の間隔をおいた連続する2回の検査値の平均値のこれまでの最低値とする」。つまり現在はカクテル療法等でCD4細胞数が増えていても、申請はこれまでの最低値をもとにすることができるということです。白血球数、Hb量、血小板数、ウイルス量の検査についても同様で、これまでの最低値となっています(ウイルス量は数値が低いものではなく高いものが最低値)。それぞれの検査の時期が一致している必要もありません。
「7日以上」「1日3回以上」「10%以上」等の期間や回数、数値と下痢・嘔気等の症状の確認は「カルテにもとづく医師の判断によるものとする」ことになっています。吐き気やだるさなど日頃の体調の悪さについて医師にきちんと説明することが大切です。これまでの症状について医師に伝えていなかったことがある人は申請前に伝え、一つひとつカルテに記入してもらいましょう。
「1週」は連続する7日を意味し、「1月」は連続する30日を意味します(暦月ではない)。つまり「月に7日以上」とは連続する30日の間に7日以上(連続している必要はない)、ということになります。
「日常生活上の制限」には生水の摂取禁止、脂質の摂取制限、長期にわたる密な治療、厳密な服薬管理、人混みの回避も含まれます。
「軽作業」とはデスクワーク程度の作業を意味します。
■申請書の提出は郵送も代理人でも可能
申請に必要な申請書、診断書、意見書は(診断書を書くことのできる指定医のいる)医療機関にあらかじめ備えることになっており、わざわざ取りに行かなくてすみます。
申請書の提出は郵送ですることも可能になりました。また本人でなくても提出することができます。親族、友人、ソーシャルワーカー、支援団体等に頼んでみるのもいいでしょう。その際、依頼状などといった書面は必要ありません。
福祉事務所の対応がきちんとするまでにはしばらく時間がかかるでしょうから、「役所がちゃんと対応できるように教育してやろう」という意気込みのある人以外は一人で行くのは避けた方がいい、と磐井さんはアドバイスしています。
手帳の受け取りも郵送でしてもらえますが、申請者以外の人宛に送ってもらうことはできません(手帳の交付には1〜2ヶ月かかります。決定された等級や不交付決定に納得できないときは不服申立てや訴訟を提起することができます)。
また厚生省は各都道府県等に対し、「HIV感染者の身体障害認定を住民に広報する際には、広報紙等の文中に、身体障害者手帳には『免疫機能障害』と記載する旨を広報することは避けるようお願いします」と注意を促しています。ちなみに東京都で障害者手帳の交付を受けている人は約31万人です。
■4級でも医療費補助「更生医療」の対象に
前号で医療費補助について解説しましたが、新たに更生医療というものが認められることになりました。
前号でご紹介したのは各都道府県が独自に行っている制度(HIV診療はもちろん、全ての医療費の自己負担分を全額助成。1級、2級のみ[東京都等は3級も]。所得制限あり[東京都の場合五六七万六千円])で、更生医療は国が行っている制度です。更生医療は適応される治療の範囲が限定されますが、3級や4級でも受けることができます(所得に応じた自己負担あり)。適応される範囲は「抗HIV療法、免疫調整療法等HIV感染に対する医療」とされています。
駐車禁止の場所にも車を駐車できるステッカーの支給は何級までか、航空運賃の割引き対象になるか、障害者雇用枠(雇用者の2%前後)の義務規定に入るかどうかなど、まだ未確定な点もあります。引き続き、ニュースレターでもご紹介していく予定です。※「更正医療」ではなく「更生医療」でした。お詫びして訂正します。